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質の高い看護師が超高齢化社会を救う 聖路加看護大学学長 井部俊子先生

超高齢化社会を目前にして、外国人看護師の受け入れにも見られるように、看護師不足が深刻化していますが、看護師養成は大学を中心にという流れの中、大学での養成課程の設置に拍車がかかっています。看護師養成に長い歴史を持つ聖路加看護大学の井部俊子学長に、大学での看護師養成課程の展望についてお聞きするとともに、今春開設、また来春開設を予定する大学の責任者に、それぞれの目指すところと特色などについてお聞きしました。

大学で看護学を学ぶ

聖路加看護大学は、1964 年に私学として初めて4年制の看護学部を設立しました。あれから半世紀近く経って、最近では看護師養成課程を設ける大学が増えています。私はこの傾向は大いに歓迎しています。

かつて、看護師は気だてがよければいいという言われ方もしましたが、これは看護師の仕事内容を本当に理解していないことによるものです。看護師は、クリティカルな場面で常にさまざまな判断をし、対応しなければなりません。豊富な知識と幅広い教養に加えて、体力、気力を兼ね備え、情緒面でも安定していなければいけません。そのためには、大学での4年間の教育は不可欠だと思います。多様な人が集まる大学で学ぶことが役立ちますし、看護学自体が学際的な学問ですから、幅広い教養を身につけるためにも、基礎教育は学士課程で行われるべきです。

また、学士号を取ることができれば、次に大学院に進んで、高度実践家、教育者、研究者になることが可能です。学歴がないと入れない世界もありますから、看護師として将来の幅を広げるためにも、4年制大学にもっと多くの看護学課程が設けられるべきだと思います。

他の学問分野出身者の看護大学への編入

EPA(経済連携協定)に基づいて受け入れを始めた外国人看護師は、今年の国家試験に合格した方が16人。現在の日本の看護師不足を補う施策として、外国人看護師を期待するのは非現実的でしょう。50万人といわれる潜在看護師の職場復帰を促す方がはるかに効果的だと思います。

一方で、離職者を減らす努力や、他分野からの転向も歓迎です。聖路加看護大学では学士編入制度の20人枠に、毎年4、5倍の応募があります。文学部出身者や法学部出身者が看護に参入しようとしています。現在日本では、編入学でも最低3年間は修業しなければ看護師国家試験受験資格を得られませんが、アメリカでは、大卒者を14ヶ月で看護師に育て上げる大学もあります。日本でも養成課程をもう少し柔軟にできれば、他分野から転向してくる優秀な人材をもっと増やすことができると思います。

これからの社会を支える「看護」の仕事

少子高齢社会において、医療や看護の果たす役割は今後ますます大きくなります。総合大学に看護学部を設ける大学が増えていることは、看護の世界に就職難がないことも、反映しています。

看護師というと、白衣を着て病院で働いている姿を想像するかもしれませんが、活動範囲は拡大しています。最近は訪問看護や特別養護老人ホーム、老人保健施設などでも看護師は必要とされています。WHOやUNICEF、JICAなどで国際的に活躍する人も必要です。看護師の代表として国会議員として政策に関与する人、研究者や指導者になる人、専門看護師として実践、研究に携わる人など、活躍の場は広がっています。看護の道へ進もうというみなさんへの、キャリア開発は多様です。

男女を問わず、「看護」への挑戦を

専門職業人として歩んでいくためには、知的な判断能力と対人関係能力がきわめて重要です。看護は実践の科学でもありますから、実践家としての体力、気力、また倫理性も大切です。人格を磨くために、小説を読んだり、映画を観たりして、自分では体験できない世界を知ることも大切です。

気だてがいいから、やさしいからという理由だけで看護はできません。専門職業人として女性限定ではなく、男性にも、看護の世界に飛び込んできてほしいと思っています。いまは5%しか男性看護師はいませんが、世の中の半分は男性ですから、今後、男性看護師が増えて、まさに男女共同で、看護の世界を発展させ、社会の期待に応えていきたいものです。みなさんの挑戦を期待しています。

東日本大震災を経験したわが国では、看護の専門家の働きがいかに価値あるものであるかを認識する機会となりました。

Profile
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聖路加看護大学 学長

井部 俊子 先生

1969年聖路加看護大学衛生看護学部卒業。聖路加国際病院看護師を経て、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士課程修了。2001年博士号(看護学)取得。日本赤十字看護大学講師、聖路加国際病院看護部長・副院長を経て、2003年より聖路加看護大学教授(看護管理学)。2004年より現職。『看護という仕事』、『マネジメントの探究』など著書多数。