進路のヒント 目指せヒューマンケアリング 薬学・看護・臨床心理「看護」

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その人でしかないその人を見るために 西洋医学と東洋医学の融合も視野に 森ノ宮医療大学保健医療学部看護学科基礎看護学教授 学科長 村上生美先生

府庁舎移転で話題になった大阪ベイエリアに開設され、今春5年目を迎えた森ノ宮医療大学。理学療法学科に鍼灸学科を加えたユニークな大学で知られますが、今春、その第一期生を輩出するのに併せて看護学科を開設しました。開設初年度の手応えと、今後の展望を、学科長の村上先生にお聞きしました。

看護学科第一期生のこれまでとこれから

●チュートリアル制

ちょうど新入生対象の『基礎ゼミナール』が終わったところですが、学生が自分たちで立てた科目の目標に対する自己評価を見ると、満足度はかなり高いようです。

看護学科では今春、第一期生88名のうち男子学生17名を受け入れました。彼(女)らは最初のうちこそ高校生気分がまだ残っているようでしたが、ゼミの回数を重ねるうちにどんどんしっかりしてきて、最後の頃には一皮剥けたかなという印象を持ちました。もともと、目的意識がはっきりしていて真面目な学生が多いという印象はありましたが、『基礎ゼミナール』では潜在能力を確認することができました。

授業は一クラス9~10名のゼミ形式で、自分が疑問に思ったことについて、情報を収集して調べ、自分なりにまとめたものを最後に発表します。私が担当したものは老人介護、原発、臓器移植など、問題意識の高さをうかがわせるテーマが多く、レジメもしっかりしていて、しかもみな、自分の言葉で発表しています。質問も多く、活発に議論もしている。本学科はチュートリアル制をとっていて、私はこのメンバーをこれから4年間指導していくことになりますが、教える側としても手応えを十分感じています。

しいて問題点をあげるとすれば、入学直後の1年から専門科目を学ぶことになっていますから、専門用語がやや負担になる場合がなきにしもあらずということぐらいでしょうか。

●この秋からは実習に

9月中旬には『基礎看護学実習1』が始まり、いよいよ実習に出ます。実習場所は住友病院、北野病院、船員保険病院の3ヶ所で、1グループ6~8名で、13グループに分かれて行います。期間は3日間で、文字通り「看護師さんの影」として、その仕事ぶりを追い、大学へ戻って観たことに基づいて一つひとつの意味を考え、自分なりの感想を発表します。本格的な実習は2年からで、2週間の間に患者さん一人を受け持ち、≪看護診断≫をしてケアを行います。患者さんの生活や病状を観察するだけでなく、自分なりに計画を立て、一部実践して、教員や受け持ちの看護師に評価してもらいます。また、今はチーム医療がとても大事だと言われますが、その要となる主治医との連携も学習します。

3年後期には、成人の急性期や慢性期別、あるいは子どもや妊婦といった対象・分野別、また地域看護や精神看護といったような領域別に2~3週間の実習があります。最終の4年次には『看護研究』に加えて、テーマを絞ってさらに深く学ぶ『主題実習』、『在宅看護実習』もあります。本学では保健師の国家試験が受験できる選択制(10名)を採用していますので、そこに進んだ場合は、4年次にそのための実習も入ります。

※ 医者が病気を診断するように、この人にはどういう看護が必要かを診断し、記録する。

大事にしたいのは全体を見る目

看護職は一生勉強ですから、大学の4年間では、まずヒューマンケアリングの基礎をしっかり身につけることが重要です。コミュニケーション力を高め、医療者として人をどう観るのか、人とどう向き合うのかなどの基本的な態度、つまり看護師としての根本的な力を身につけるのです。今日、あらゆる学問は細分化し、医学も例外ではありません。これはある意味で大切なことですが、やはり看護は、あくまでも≪その人の全体、まとまりのあるその人≫、≪その人でしかないその人≫を対象とするわけですから、細分化した知識だけでなく、全体を見るために基本となる考え方を身につけることが特に大切だと思います。本学科では、『人間学』や『患者学』といった教科目を設定して、できるだけ全体的な見方や考え方を身につけてもらおうと考えています。

全体を見る、という点では、≪東洋医学と西洋医学の融合≫も、本学科の一つのテーマです。

そもそも看護は、アート(技術)とサイエンスがベースになっていて、東洋医学はこれまであまり取り入れられてきませんでした。しかし看護の基本は生活を整えることでもありますから、鍼灸など、東洋医学独自の技術を生かす余地は十分あります。例えば体をキレイにするときに、ツボを使って血液の循環を促進するなどをケアに取り入れれば一石二鳥だと思います。さらに学問として、その科学的根拠(エビデンス)を明らかにしていくことができれば、鍼灸を教えられる大学ならではの独自のカリキュラムになるのではないでしょうか。その手掛かりとしては、『看護のための鍼灸学、理学療法』という教科目を開設していますが、まずは卒業研究で取り組んでくれる学生が出てくれるといいと思っています。

保健師を目指す課程は選択制とし、2年前期に面接、小論文等から10名を選びます。なお、助産師の養成課程は置いていません。

理系・文系について総合的に学んできてほしい

看護職に求められる資質は、よく優しさや温かさ、気配りといった感性面から捉えられることが多いですが、きちんと患者と向き合って科学的に正確な判断を下すことが重要です。そのためには、高校時代、理系と文系をバランスよく学ぶことが不可欠です。今の高校の教育課程では理科をあまり学ばなくても卒業できますが、看護学には解剖学や生理学、栄養学、薬理学など、理科の知識を必要とする分野が少なくありません。こうした考えから、本学科では、昨年の公募制こそ国語一科目でしたが、今年は国語、生物、英語、数学から2科目を選択、一般入試では3科目を選択してもらうことにしています。

さらに看護学は、この夏休みにもレポートがたくさん出るなど、学士課程ではあっても他の学問に比べるとカリキュラムはかなり過密です。ですから看護師を目指すなら、専門職としてキャリアを重ねていきたい、目的があれば勉強することも厭わない人といったような覚悟も必要です。もちろん、人と接する仕事ですから、人が好きで、人の役に立つこと、人の世話が苦にならないことも重要です。ただこれは、今からそうでなければならないとか、今の段階で人と話をするのが得意でなければならないということではありません。意志さえあれば道が拓けると思うからです。

●それぞれの個性に合った看護を

私は40年ほど看護師教育に携わってきましたから、これまでにたくさんの学生を見てきました。学生の中には、人の世話をするのは好きだけれど、勉強が嫌だという人もいます。「頭の先から足の先まで」系統的に観察して、その人の健康回復にとって何が必要なのか判断して、計画を立てるのは知的なトレーニングですから、それが苦手な人もいるわけです。もちろん反対の理由で実習が嫌いだという人もいます。ただそういう人でも患者さんと少しずつ話ができたり、背中を拭く、足を洗うなど、一つでもケアができて、「おかげで夜ぐっすり眠れた」などと言われたりすると、いっぺんに開眼するようなこともあります。得手不得手はあっても、実習をこなしていく中で、ほとんどのことはマスターしていけるものなのです。

看護師の離職の原因はハードワークや結婚・出産と言われています。しかし今後は正規の職員でも時間を短く区切って働けるように職場環境を整備しようという動きも出ています。また病院など、職場での新人看護職員に対する臨床研修の実施が法律で努力義務化され、就職1年以内の離職率は9%を割っています。これは他の職種に比べてもはるかに少ないのではないでしょうか。ヒューマンケアに興味のある人、意欲のある人には積極的に志願してほしいと思います。

Profile
村上生美先生の写真

森ノ宮医療大学
保健医療学部看護学科
基礎看護学教授 学科長

村上 生美 先生

大阪大学医学部附属看護学校卒業後、看護師として国立福山病院に勤務(内科病棟・手術室・外来)。その後、教員として看護師養成にあたり、2010年3月まで岡山県立大学の教授。博士(工学)。研究領域はケア(看護技術)の科学的検証、コミュニケーションの研究。