進路のヒント 《工学特集》 工学を楽しもう! ここでも女性の時代が始まる

写真 松尾 亜紀子 先生

少ないからこそ注目される、工学分野でいま、女子であることはメリット

慶應義塾大学
松尾 亜紀子 先生

Q 工学系に進む女子が少ないようですが、どうお考えですか。
A 競争倍率の低いところへ進んだ方が得!

昔もいまも、理系に進学する学生数はあまり変わりません。もっとも医学、薬学などの生命系で進学者数が増えているのに対して、工学系に進学する人は減っているようです。特に女子には薬学が人気で、化学系を除くと工学系を志望する人は決して多くはありません。自分の特性によるものの、競争倍率が低いところへ行った方がいいことがあると思うのですが。

研究の世界には男女の差はありません。ただし競争の激しい分野を目指すと、無駄な努力が必要になる上に、失敗する可能性も増します。企業でも、就職先として人気の高い大企業には、優秀な学生が集まってきます。すると、単によくできるだけでは目立ちません。たとえば美人な人がモデルクラブに入っても飛び抜けられませんが、勉強して女性の少ないところへ進めば、ものすごい美人だと評判になって将来が開けることがあるかもしれません(笑)。そこまで考えて、自分の特性をなるべく生かせるようなところを選ぶことが大切だと思うのです。 機械工学専攻の女性は数が少ないですから、学内でも学界でもすぐに名前も顔も覚えられて、注目もされます。活躍の場はどんどん広がっていますので、物理が好きであれば、女子も工学系を選んでがんばればいいというのが私の持論です。機械工学の世界は男性ばかりですが、もっと女性を登用しようという動きもありますし、早いうちから仕事を任せてもらえることもあります。私の場合は仕事がきすぎだと感じることもしばしばですが、一つひとつが自分を高めるためのチャンスだとプラスに捉えて、道を切り開いていってほしいのです。

Q 実験や研究など、夜遅くまで取り組んで大変そうなイメージがありますが、実際はどうですか。
A 徹夜は強制的なものではなく、時間を惜しむほど実験、研究が面白いから。女子を含め、この面白さをもっと多くの人に知ってほしい。

徹夜がないとは言いませんが、あっても無理矢理ではありません。私もたまに明け方近くまで論文を書いていることがありますが、それは考えたいから夜中になっても考えている、たまたま時間がかかっているだけのこと。研究で徹夜するのも、面白いからなのです。やめられなくて時間が過ぎていて、気がついたら空が白くなっていたという感じです。ここは徹夜してまで取り組むほど面白いことが待っている、とプラスに感じ
てほしい。

面白い研究は、毎朝起きて次のステップを上がるのが本当に楽しいものです。そういう気持ちもぜひ味わってほしい。学生さんも学会発表の前などで遅くなる時もありますが、それはそれでいい経験だと思います。とくに理工系で研究しながら国際学会へ出席したり、学会発表をしたりしていると、自分にはこんなにポテンシャルがあったのかと自分自身に驚くことがあります。これに気がついて、うんとがんばれると、社会に出て大変なことがあっても苦に感じません。研究室でがんばっていたという思いから、会社の仕事が余裕に感じることがあります。

こうした面からも、将来企業で活躍する人にとっても、理工系への進学はいい経験で、面白いことができるチャンスを広げるものだと思います。仕事というのは定時があって、残業がついて、時間を切り売りするものですが、大学や大学院での生活や研究は、時間にしばられずに自分の能力をしぼりだすことができる、貴重な時間だと思うのです。

Q 先生のご研究は
A 専門は流体の研究

気体を中心に、流体を主にコンピュータを使って研究しています。液体や固体を対象にすることもあって、それらが化学反応によって爆発的に燃焼が広がる、デトネーションという珍しい現象です。 私たちが扱うのは、ものすごく速い流れです。マッハ数1というのは音速と同じ速さの流れですが、それよりも速い流れで、高圧の下での時間的な発展、変化なも研究しています。具体的には自動車エンジンの中の吸気や排気の流れ、ロケットの燃焼室の中の流動、あるいはロケットが飛んでいく時の空気の流れなどを考えてもらえばいいと思います。これまでの研究では、エンジンの中の流動がどうなっているのかなど、実際には計測できないものがたくさんありました。 それが現在ではコンピュータの進化に伴って、シミュレーションによる実験先行で開発は進んできたところがあります。シミュレーションで中の流動をうまくモデル化して局所的に流速を測ったり、化学反応を瞬間的に起こして測ったりすることが可能になってきました。固体などの構造部材の設計は、すべてこうした方法で行われています。どこをどう改善したらどれぐらい効率が上がるのか、振動によって困った現象が起きているのはどこが問題なのかなどもわかるようになってきましたから、物理現象もかなり精度よく表すことができます。ただし、コンピュータシミュレーションはあくまでもツール、というスタンスです。

デトネーションは、突然、瞬間的に爆発的に燃えるという、日常生活ではまず遭遇することのない現象です。しかし、基本的な現象を理解することで、こうした現象を防ぐためにすべきことがわかりますし、逆にゆっくりと普通に燃やすよりもエネルギーを瞬間的に大量に出すことができるため、これをエンジンに応用するという考えにもつながっていきます。

Q 工学の強みとは?
A 対象が広がる工学分野

最近は工学の分野でも学際的で縦割りにできない領域がとても多くなっています。以前は、工学は硬いものを扱うイメージでしたが、現在では軟らかいもの、生きているものにまで範囲は広がっています。今後、工学とは化粧品から体の中までといったイメージに変わっていくかもしれません。

私は学部時代に数学を学び、大学院では航空工学を専攻し、現在は機械工学の研究をしています。逆に、大学時代に機械工学を学んで、現在は医学や生命科学と接点がある研究者も多い。もちろん学問分野の境界線があいまいになっても、機械工学の重要なバックボーンは物理です。つまり、力学的な現象の理解という、化学や生物の研究者にはない視点を持っているのが工学を学んだ者たちの強みでもあります。