進路のヒント 目指せグローバル人材 国際・教養・外国語を学ぶ

写真 洞口 治夫 先生

経営学を突き詰めると世界が見えてくる

法政大学 経営学部 経営戦略学科教授
洞口 治夫 先生

半世紀以上の歴史をもつ法政大学経営学部で国際経営論を担当される洞口治夫教授。学生時代、法政大学の派遣留学制度※1の2期生として渡英して以来、世界的に著名なマイケル・ポーター(Michael E. Porter)教授※2とも親交を結ぶなど、国際派の経営学者として活躍されています。経営学の視点から見た国際化や、そこで求められる人材像、また授業の様子などをお聞きしました。

※1 学業成績が優秀で高い外国語の能力を持ち、かつ留学への強い意志を持った学生を海外の協定大学へ派遣しようと、1979年度に「法政大学奨学金留学生制度」として発足。年間約30名程度が全学から選抜され、留学先大学での学費が全額免除されるほか、70万~100万円の奨学金が支給される。
※2 ハーバード大学経営大学院教授。バリューチェーン(価値連鎖)などの競争戦略法を提唱したことで知られる。バリューチェーンとは、企業活動を、製造などの主活動と人事や技術開発などの支援活動に分け、どの活動が顧客価値の創造に貢献しているかを判断することで、競争優位の源泉を明らかにしようするもの。2009年には法政大学経営学部創立50周年記念講演を行った。

国際的な経営学の流れと日本

『もしドラ』※3のブームで最近は高校生にも知られるようになったドラッカー博士ですが、彼が私たちに示してくれた重要なことの一つに、企業にとって利益は最終目的ではなく、制約条件に過ぎないという考えがあります。制約条件とは、それがないと存続できないものという意味で、企業は必ずしも利潤の極大化を目指すわけではなく、従業員や株主、消費者の利益についても考えるというように、利他主義によっても活動しているとするのです。

実際、わが国においては、江戸時代の石田梅岩(1685~1744)らによる石門心学にはこのことが説かれていますし、当時から現代にまで生き続ける企業グループの社是、社訓には、それを色濃く反映したものが少なくありません※4。またこうした考え方、思想が明治維新以降、日本が急速に欧米の列強諸国に追い付き、また戦後、驚異的な経済復興をとげたことの一つの原動力になったのではないかという見方もあります。そして今日、このような考え方は、世界的にもグローバル経済を考える上で欠くことのできないものとされているのです。

もともと私は、学部時代には経済学で経済政策という分野を専攻し、日本企業の開発途上国への進出を研究しました。開発途上国の人々を豊かにするためには、経済学が重要だと思ったのです。しかし、経済学には、元来≪利他≫という視点はありません。アダム・スミス以来、人間は自分の最大利益を求めて利己的に行動するものであると、最近まで考えられてきたのです。経済学は、人間の利己心を前提として、精緻な理論を組み立ててきたと言ってよいでしょう。

私はその後、経営学へ転じ、グローバル企業の研究へと進んできました。人々を豊かにする国際的な企業活動とは何か、その源泉は何かを探求してきたのです。2000年前後からは、インターネット上のオープンソースソフトウエアなどに象徴されるような集合知collectiveintelligence※5という概念が経営学に適用され、近年は、その背後にある利他主義にも注目が集まるようになりました。企業のなかに知識が広まり、新たな知識が生み出されるプロセスは利己主義からだけでは説明できない。利己主義と利他主義のバランスをいかにとるかが、グローバルな経済、ビジネスを考える上での鍵になるのではないかという考え方が、国際的に注目されはじめているのです。そんな中、歴史的にみても、日本は利他主義を研究するには最もいい環境にあると私は思っています。

※3 岩崎夏海著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社、2009年)の略称。ピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker、1909~2005)は世界的に著名な経営学者。経営学には、大きく分けて戦略論と組織論、それに財務、人事、情報、マーケティング、生産管理、知財管理などを扱う管理論があるが、『もしドラ』が描いているのはこのうちの組織論。「経営学的な観点からは、戦略論がまず欠かせない。野球をするのか、サッカーをするのか、ゴルフをするのかという選択をするのは、個人の戦略選択になっています」と洞口教授。
※4 ≪浮利に走らず≫、≪自利利他公私一如≫(住友家)などがよく知られている。これとは別に近江商人には、売り手と買い手と世間の三者にとっていいことが大事であるという≪三方よし≫の考え方があった。法政大学創立者の一人、薩埵正邦(さった・まさくに)は、石門心学を教える学者の家庭で育った。
※5 たくさんの人がお互いに情報を公開し合い、共有することで生まれる新たな知。

鍵は日本語での理解

私の担当する国際経営論の講座では、国際的なビジネスシーンで活躍できる人材の養成に努めています。それは、ただ英語ができて、海外へ行って業務をこなせるということだけを意味しません。英語力だけが重要だとすれば、グローバル企業は英語のできるインド人を雇えばよいことになります。また国際ビジネスの舞台で今一番の相手は中国ですから、中国語も不可欠になり、その点では中国の人の方が圧倒的に有利です。

英語を社内公用語にするようなグローバル企業でも、日本国内での取引相手は日本の企業ですから、専門知識については日本語でしっかりと理解し、それを基に日本語を英語に、英語を日本語に翻訳できる能力が求められるのです。私の経験からいっても、日本の普通の高校出身者でも、努力すれば4年で英語を話せるようにはなりますから、正しい日本語を使って、日本語で専門知識をしっかりとマスターし、その専門知識について英語で理解を進めていくことが大切なのです(下コラム)。

経営学部生のための用語集

法政大学経営学部の教員一人ひとりが分担して、独自に作成したもので、学部生全員に無料配布されている。「このような用語辞典を作ることのできる経営学部は世界的にもめずらしいはず」と洞口教授。目立つことではないが、優れた教授陣を有する組織的な強みがあることがわかる。

国際経営と法政大学全体の取り組み

国際経営論の講義で人気があるテーマは、日本企業の国際化です。教材には『ガン・ホー』という1980年代にアメリカで製作されたコメディのVTRを使います。アメリカへ進出した日本の自動車メーカーが、アメリカ人と日本人従業員の一致団結で経営危機を乗り超えるというストーリーで、これまで多くの研究者もこの映画の意義についてコメントを寄せています。学生諸君にはそれらを読んでまとめ、さらに、自分の知っている限りの経営学の知識を使って続編を考えてもらうのを宿題にしています。映画の続編を考えるにはM&Aや雇用制度などの専門的知識について学ぶ必要がありますが、その知識を使ってストーリーを自分で作りあげる面白さが受けているようです。

ゼミには、2年生から4年生までが合同で参加して、アメリカの大学の学部で使うテキスト『International Business(国際経営)』を使い、毎回2~3ページ分について、担当者が翻訳したものを全員で添削します。普通の高校で行われている英文読解の授業を強く意識し、それに経営学の知識を加えた内容の授業です。近年では、法政大学の学内LANによる授業支援システムが整っていますので、学生諸君には自分なりの和訳をあらかじめこのサイトへアップロードしてもらっています。日本国内の高校を出た学生が、4年で経営学の専門書を英語で読めるようになるには、こうした地道な努力を積み重ねるしかないと私は思っているからです。もちろん英語の発音についても熱心に指導しています。

学生の意欲を高めるものとしては、他大学のゼミと研究報告をし合うインターゼミ※6と、懸賞論文があります。ゼミには優秀な学生諸君が集まってきますので、学内・学外の懸賞論文に入選する学生が多いのです。

法政大学全体としては、国際化への対応はかなり早かったと思います。3、4年生対象の派遣留学にはすでに30年以上の歴史がありますし、2000年代に入ると複数の学部で、主に2年生を対象に、自費で一学期、3~4カ月にわたって留学するスタディアブロード(SA)プログラムが取り入れられています。また、英語ですべて単位の取れるESOP(ExchangeStudents from Overseas Program・支援留学生受け入れプログラム)は1997年から開設されていて、日本人学生も受講できます。学部についても、1999年に国際文化学部を設立し、2008年には国際教養を前面に打ち出したGIS(Faculty of Global and Interdisciplinary Studies グローバル教養学部)を開設しました。昨今の厳しい採用状況の中にあっても、法政大学の学生の就職状況が良いのは、こうした様々な施策の積み重ねがあるからだと考えています。

グローバル化社会の中で生き抜く秘訣は、何と言っても、しっかり足元を見つめ、自分の足場を固めること。これは私が留学した時の素直な感想ですし、現在、海外の研究者と頻繁に交流する中で心掛けていることでもあります。

※6 2年生から年1回行われる。最近では東京大学、慶應義塾大学、上智大学との間で行う。上智大学国際教養学部の大学院生とのインターゼミは、全て英語で行われている。