進路のヒント 目指せグローバル人材 国際・教養・外国語を学ぶ

写真 森田 典正 先生

世界を元気にするために グローバル人材を輩出して7年、国際教養の今後について語る

早稲田大学 国際教養学部長
森田 典正 先生

早稲田大学に10番目の学部として、2004年に開設された国際教養学部(School of International LiberalStudies=SILS)。2009年、早稲田キャンパス中央に聳える新設の11号館に移ってからは、まさに早稲田大学の世界へ向けた顔として、その存在感を増しています。来年度からは、2013年の大学院開設に合わせた改革も始まります。2010年から学部長を務める森田先生にSILSのこれまでと、これからSILSで学ぼうと考えている高校生へのメッセージ等をお聞きしました。

SILSの特徴とポジショニング

私どもが国内の他の国際教養系の大学、学部と大きく異なるのは、1学年600名という規模の大きさと、総合大学の中にあるという点でしょう。留学生や帰国生あるいは長期留学経験者など、ネイティブに近い英語力を持った学生もたくさんいますが、約6割に近い300名以上の学生は、海外での経験が少ないか、全くない普通の高校の出身者です。彼らが英語を使って生活し、英語で仕事ができるように4年間で育て上げることは、学部の一つの理念でもあるわけです。

日本語を母語とする学生には、2年後期からの1年間の海外留学が必修ですから、彼らにとってはそれまでの1年半で語学力をどれだけつけられるかが大きなポイントになります。彼らのために開かれているのが、英語インテンシブコース(Intensive English)※1で、これは二つの科目からなり、週約6時間です。海外留学先は1年次の終わりには決定されていますから、実質的には1年目の成績によって選択肢が広くも狭くもなるわけです。インテンシブコースや一年次の科目で成績が優秀なら、海外の有力大学に交換留学生の資格で行くことができ、現地の学生と対等に授業が受けられます。しかし、そうでない場合は、TSA(Thematic Studies Abroad)やISA(Individualized Studies Abroad)といった科目※2を学び、語学力が一定レベルに達するまで正規の授業が受けられないといったように、いくつか制約が出てきます。

SILS を目指す人には、高校時代まで英語が好きだったり得意だったりする人が多いと思いますが、語学はやはり一種のスキルですから、成績にもバラつきが出るのはやむを得ないことだと思います。

ただ、語学力に不安がある学生も、1年間の留学を終えるとみな見違えるように逞しくなって帰ってきます。日常生活はもとより、ゼミでの外国語の運用能力も別人のようです。3年後期からは、自分の専門分野について上級演習※3で学ぶようになるわけですが、彼らの姿を見ていると、学部設立当初、半数の学生が脱落するのではないかという一部の噂が杞憂に過ぎなかったことがよく分かります。

※1 リスニングとリーディングの2つのセクションがある。リスニングのクラスでは、英語による講義の要点を把握するためにリスニングのポイントを学ぶ。リーディングのクラスでは、多くの文献の中から自分に必要な情報を探し出すためのスキルを身につける。英語の基礎が学べる授業としては他に、全学で展開されているチュートリアルイングリッシュがある。これは先生1人に対して、学生4人を上限とした徹底した少人数のグループで英会話のレッスン
※2 ISA:Individualized Studies Abroad。 交換プログラム同様、現地の正規課程で科目を履修。TSA:Thematic Studies Abroad。テーマに基づいた学習をする。多くは現地の大学での授業を補助する語学力向上をサポートするもの。いずれも早稲田大学が開発。
※3 SILSの学びは、大きく共通基礎科目(語学、数理統計)、専攻科目、自由選択科目に別れる。講義と演習はレベルに応じて基礎(入門)、中級、上級に分けられる。

英語だけではない

SILS の特徴は、英語以外の言語の豊富さとそのためのプログラムにもあります。留学先も20%は非英語圏です。たとえば、英語のネイティブスピーカーにとって海外留学は必修ではありませんが、彼らの一部は英語圏以外の国の大学へ留学します。この場合、英語によるプログラムがあるスウェーデンなどを除けば、すべて高校時代までに習ったことのない言語で学ぶことになります。それでも、たった2年で新しい言語を自分のものにしてきた学生も出てきています。

英語圏以外の協定校の中には、中国の北京大学、復旦大学、シンガポール国立大学などのように、早稲田大学の学生が学位のとれる、いわゆるダブルディグリー制度を設けている大学もあります。北京大学、復旦大学のダブルディグリープログラムでは通算4年で卒業することが可能です。シンガポール国立大学ではそれが5年になりますが、オーナーズプログラムという特別に優秀な学生のためのコース内にあり、成績優秀な早稲田生なら2年間の交換留学生として彼らと競うこともできます。このダブルディグリー制度については、今後英語圏の大学へも拡大していく計画です。

これからのSILS

4年間で使える英語を身につける、しかもそのうちの1年は海外留学しているわけですから、他の学部に負けない専門性を身につけてもらうことは、設立以来の課題でもありました。今でこそなくなりましたが、1期生、2期生の頃には企業の採用面接で「専門は何か」と問われて困ったという話も学生から出ました。

現在は、専門領域として7つのクラスター(科目群※4を用意していて、一人ひとりがその中から自分なりの興味と関心で科目を選び、それらを横断的につないで、自分の専門を作るシステムになっています。しかし、開設当初には、ある共通項でくくれる科目を集めて、横串を刺し、例えば『地域研究』とか『21世紀研究』など、テーマによる科目群を提供してはどうかという構想もありました。そこで来年度からは、2013年の大学院開設にも合わせて、それをさらに進めたような、専門性への集中を強めたカリキュラムを試行的に導入する予定です。ちなみに大学院は、コミュニケーションに特化した研究科を計画していますから、6年一貫で対人、対社会、対組織のコミュニケーションについて学んでもらえるようになると思います。

※4 1. Life, Environment, Matterand Information(生命・環境・物質・情報科学)。2. Philosophy, Religionand History(哲学・思想・歴史)。3. Economy and Business( 経済・ビジネス)。4. Governance, Peace, Human Rights and International Relations(政治・平和・人権・国際関係)。5. Communication(コミュニケーション)。6. Expression(表現)。7 .Culture, Mind and Body, and Community(文化・心身・コミュニティ)。

留学のススメ

現在、日本の若者が内向きであると報道されていますが、本学で見る限り、留学志願者は増え続けていますし、必修になっている留学以外にも海外へ出る学生は減っていません。考えてみればこれは当然のことで、今日ほど、大学や中学、高校での海外留学制度が整っている時代はこれまでなかったはずです。まして今は円高ですから、コスト面でも極めて恵まれています。

かつて30、40年前は、お隣の韓国は、日本と並びアジアで最も英語が苦手な国民として知られていました。しかし韓国はこの30年、国の国際化政策が功を奏した上、社会構造や産業構造ゆえに、英語力では今やアジアNO.1と言われています。高校以前からの留学も当たり前で、幼少期に父親を韓国に残したまま子どもの留学についていく母親のことが話題になるほどです。

日本の高校生も、入試に有利なようにと、戦略的に考える必要はありませんが、長期的な展望の下に、高校時代に一度は海外へ出てみるのもいいかもしれません。もちろん、半分近くを普通の高校以外からも受け入れているSILS としては、長期留学をする高校生が増えることも大歓迎です。

SILS の学生は、留学先でもイベントなどがあると、先頭に立って盛り上げようとするということをよく耳にします。外国語の力はさておき、海外へ出てもやはり早稲田の学生は早稲田らしさを発揮してくれているなと、私が頼もしく感じる瞬間でもあります。

高校時代には

普通の高校とSILSの最も大きな違いは≪英語を学ぶ≫ことと≪英語で学ぶ≫ことを同時に行う点です。入学後の1年半は、英語で読む、英語で意見を述べる、英語で書くといった力を育てながら、英語以外の科目も英語で学ぶわけです。日本の高校では、英語で英語の授業をすることはあっても、一般的には英語による他の教科の授業はありませんから、SILSの授業に慣れるには、高校時代から英語で新聞や小説を読む、自分でエッセーを書いてみる、また英語の映画やTV番組を見るなど、できるだけ英語で学ぶことを訓練しておくといいと思います。もちろん、AO入試にも一般入試にも、このようなメッセージは充分託しているつもりです。