進路のヒント ススメ!理系特集

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大学発、みつばちプロジェクトが始まる みつばちを飛ばそう! 京都産業大学 総合生命科学部 生命資源環境学科 准教授 高橋純一先生

エジプトやヨーロッパでは約5000年前から養蜂が行われてきました。ミツバチは、「牛、豚、鶏に次いで価値のある家畜」といわれるほど、人間の生活に無くてはならない存在です。近年では、これまでの役割に加えて都市緑化の担い手としても注目されています。

ミツバチの品種改良や絶滅危惧生物の保全などに取り組んでおられる京都産業大学の高橋純一先生に、養蜂産業の現状と21世紀の品種開発、未来につながるみつばちプロジェクトについてお聞きしました。

ミツバチの活躍の場は広がる

京都産大ブランドのハチミツの写真
OB・OGらと開発中の京都産大ブランドのハチミツ。

養蜂業者はミツバチを飼って生計を立てています。ミツバチが生産するものとしてまず思い浮かぶのは、ハチミツでしょう。ローヤルゼリーやプロポリスも知られています。でも実は、これら養蜂生産物が養蜂業全体の生産額に占める割合は、わずか2~5%に過ぎません。残りの95%以上を占めるのは、花粉交配(ポリネーション)としての生産額によるものです。野菜や果物のハウス栽培のポリネーションにミツバチを利用することで受粉が効率的に行えることから、現在多くの農産物がミツバチによるポリネーションで生産されています。イチゴでは、実にその約98%を占めています。クリスマスケーキに新鮮で美味しいイチゴが使われるようになったのも、イチゴハウスの中でミツバチが受粉作業を行うようになってからです。

また欧米では、2000年頃から、温暖化防止、都市緑化、生物多様性の保護、食育、環境教育などの観点から、都市部や商業地域にあるビルの屋上でミツバチを飼育する「都市養蜂」(屋上養蜂)がさかんに行われるようになりました。これが近年、日本でも注目され始め、現在、東京の銀座を始め、全国30ヵ所以上で「都市養蜂」が行われています。今後は町おこしや観光、産業振興等から、企画する自治体や企業はさらに増えそうです。

大学で飼育中のセイヨウミツバチの写真
大学で飼育中のセイヨウミツバチ。中央にいるのが女王。

京都産大でも関西圏の緑化促進、地域活性化、教育活動に貢献しようと、2012年から大学と附属高校の屋上で養蜂をスタートさせるべく、現在準備を進めています。また、卒業生や養蜂業者と連携して、ミツバチ由来のさまざまな商品も開発していて、いくつかは、京都産大ブランドとして2012年から販売する予定です。養蜂業も他の農畜産業と同じように高齢化や従事者の減少が進んでいますが、最近では若い人の中にも、特に女性が養蜂やミツバチに興味をもつ人が増えていて、頼もしいかぎりです。

現在日本でハチミツ生産やポリネーションに利用しているミツバチは、セイヨウミツバチというヨーロッパ由来の種です。日本には、在来種であるニホンミツバチが生息していますが、野生の性質が強く、咲いている花が少なくなると、次の場所を求めて引っ越しをする「盗去」という性質を持っています。また、自分たちに必要な分しか蜜を貯めないので、ハチミツの生産量もセイヨウミツバチに比べて多くないため、産業用には不向きなのです。

日本はこれまで、コストを抑えるためにセイヨウミツバチのほとんどを外国からの輸入に頼ってきました。ところが、2006年頃からアメリカで発生した原因不明のミツバチ消失は、ミツバチ不足問題を引き起こし、それまで輸入に頼っていた日本にも大きな影響を与えました。これをきっかけに、国内でのミツバチ生産にも力を入れようという動きが起こっています。ただ日本では、都市化や森林の荒廃によりミツバチのエサとなる蜜源植物が少なく、実現するには環境保全や緑化推進とともに養蜂技術の進歩が必要で、ここに生命科学の知識と技術の貢献が期待されています。

病気やダニに強い新品種の開発を

御堂筋通の街路樹に営巣したニホンミツバチの巣の写真
御堂筋通の街路樹に営巣したニホンミツバチの巣(大阪市)。都市化にも負けずに生き残っている。

そんな中、私が現在力を入れているのが、ミツバチの新品種開発です。養蜂は5000年以上の歴史がありますが、これまでミツバチの品種改良には、実は遺伝学で有名なメンデル先生もミツバチの育種を試みたことがありますが、現在まで誰も成功していません。ミツバチは野外で繁殖し、空中で交尾を行うために観察が難しく、しかも女王蜂は10数匹のオスと同時に複婚して遺伝的に異なる働きバチが生まれるため、品質を均一化するのがとても難しいのです。

とはいえ、ミツバチ生産にとって「ふそ病」や「ミツバチヘギイタダニ」といった病気や寄生虫の問題は、近年深刻化する一方です。それらに耐性を持つ新品種の開発は、これからの養蜂業には不可欠といえます。

品種改良で近年注目を浴びている方法は、DNAタイピングによるDNA育種です。従来の品種改良は、色や形など表に現れる形質から選別を行うため非常に手間と年月がかかっていました。しかし、DNAタイピングによる遺伝子の解析とDNAマーカー(目印)による選別を行うことで、早く確実に目的の遺伝子を持った個体かどうかを調べることができるようになりました。

その上で病気に強い遺伝子を持つ個体、あるいはダニに強い抵抗性を持つ個体を選別・抽出し、それらをかけ合わせれば病気やダニに強い品種をつくることができるはずです。また、都市養蜂が増えてくれば、性質が温和で人を刺さない品種の開発も必要です。

生命科学やバイオテクノロジーの技術はかつてに比べ飛躍的に進歩しています。これまで不可能といわれてきたミツバチの品種改良ですが、いずれ成功する日が訪れるかもしれません。

※ DNAの塩基配列や遺伝子情報をもとに遺伝子型を判定する手法。

Profile
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京都産業大学 総合生命科学部
生命資源環境学科 准教授

高橋 純一 先生

専門は分子生態学、養蜂学。少年時代から昆虫が好きで、高校時代に出会った本『スズメバチ類の比較行動学』がきっかけで社会性ハチ類に強い関心を持ち、玉川大学農学部昆虫学研究室及び北海道大学農学部昆虫体系学研究室(修士)で社会性ハチ類について学ぶ。玉川大学大学院農学研究科、博士(農学)。(独)日本学術振興会特別研究員、京都大学生態学研究センター機関研究員を経て、現職。埼玉県立宮代高等学校出身。

※この記事は、大学ジャーナル2011年11月号(Vol.96)に掲載された当時のものです。