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時空のさざなみ、重力波をキャッチせよ 晴れ上がり前の宇宙が見えるかもしれない 法政大学 理工学部 創生科学科 准教授 佐藤修一先生

ガリレオの実験やニュートンのリンゴと木のエピソードを聞けば、多くの人が重力や万有引力について思い起こしますし、毎日、地球の重力を受けて生活していることに違和感を感じる人もいないと思います。しかしこれほど身近な力であるにもかかわらず、その正体は謎に包まれています。アインシュタインはその実体を≪時空のゆがみ≫と言い表しました。加えてそのゆがみは光の速度で伝播するとも予言しています。それが重力波です。

これまで検出は困難と考えられていた重力波ですが、観測機器の精度が向上するとともに、ようやく本格的な観測が世界的に始まろうとしています。それを支える日本の若手研究者の一人である佐藤修一先生に、重力波とは何か、観測の狙いと具体的な観測方法、計画されているプロジェクトなどについてお聞きしました。

重力波は存在する

時空のゆがみが光の速度でどこまでも伝わっていく――、今から100年も前に、こんな不思議なことをアインシュタインは考えました(『一般相対性理論』)。私たちはこれを水面を伝わる小さなさざなみをイメージして、時空のさざなみと呼んでいます(イラスト)。

1989年、ラッセル・ハルス(Russell Alan Hulse)とジョゼフ・テイラー(Joseph Hooton Taylor, Jr )は、新しく発見した連星パルサーからの短い周期の電波を30年近くもの間記録し続け、アインシュタインの予言を間接的に裏付けました。連星とはお互いに引っ張り合い、共通の重心を中心に回る二つの星です。パルサーとは規則正しく電磁波のパルスを出す星で、超新星爆発で残った中性子星ではないかとみられています。それぞれの星はあまり大きくありませんが、二つが回り合うことで放たれる電磁波が捉えやすいのが特徴です。

彼らは長年に亘って、その『近星点通過時刻』を測定してその公転周期を調べました。宇宙が理想的な真空で「摩擦」がない環境であるならば、公転周期はいつまでも変わらないはずです。しかし彼らは、長い年月の間に、それが少しずつ短くなっていることに気づきました。しかも数十年に亘る変化の様子がアインシュタインの予測に基づいた理論曲線に見事に符合することから、この連星は重力波を放出してエネルギーを失っていると結論付けたのです。彼らはこの一連の発見で1993年にノーベル物理学賞を受賞しました。

重力波と電磁波とは違う

重力波のイメージ図
重力波のイメージ図:NASA GSFC

この発見は、実際に重力波そのものを捉えたものではありませんでしたから、これ以降、重力波そのものを直接検出しようという気運が高まってきました。同時に天文学においても、重力波に対する関心が急激に高まってきました。

重力波は、光やX線などの電磁波※1とは異なり、働く力が極めて弱い(物質との相互作用が弱い)とされています。そのため検出は難しいものの、ものの間を擦り抜ける力(透過力)が強く、電磁波では観測が難しいものでも観測できます※2

その最もエキサイティングなターゲットの一つは晴れ上がる前の宇宙の様子、つまり初期宇宙の様子です。

宇宙は今から137億年前のビッグバンにより現在の姿になったと考えられていますが、これまでのところ観測できるのは、それから約38万年以降の姿です。ビッグバン直後、宇宙では水素やヘリウムなどが電離して浮遊していたため、電磁波はそれらに衝突して散乱し長距離を進めず、晴れ上がり以前の宇宙を見通すことはできないと考えられるからです。しかし重力波はその間を擦り抜けることができると考えられていて、それを捉えられれば、まさに宇宙誕生の瞬間の物質の分布がわかると期待されているのです※3。ちなみに今年のノーベル物理学賞は、宇宙の膨張が加速していることを突き詰めたソール・パールマッター(Saul Perlmutter)、ブライアン・P・シュミット(Brian P. Schmidt)とアダム・G・リース(Adam G. Riess)に与えられましたが、重力波を用いれば膨張加速度の直接測定も可能になります。またあらゆるものを吸収してしまうブラックホールの内部も、重力波なら見ることができると考えられています。

※1 高速で伝播する電磁場の変動。電磁気学から導かれる。1864年にマクスウェルが予言し、1888年にヘルツが実験で発見した。

※2 宇宙の観測方法としては他にニュートリノなどの宇宙線による観測がある。

※3 晴れ上がりとは、電離していた電子と原子核が結合することで電磁波が電子などに邪魔されず通過しやすくなった状態。

いよいよ本格的な観測が始まる

LISA 宇宙干渉計のイラスト
LISA 宇宙干渉計:NASA-ESA

アインシュタインが相対性理論の中で重力波を予言したのは100年も前の事ですが,重力波の検出が試みられるようになったのは、ここ20、30年の間のことです。近年になって、観測機器に用いる様々な装置で技術革新がおこり、観測精度が飛躍的に向上したことによって本格的な観測への気運が高まってきたことが背景にあります。

重力波の検出原理は極めて単純で、二つの点(自由質点)の間の距離の変化(伸び縮み)、もう少し教科書的にいうと大きさを持った物体の潮汐力の変化を計ります。潮汐力は直角方向に交互に作用する力で、それによって伸縮する質点のサイクルが重力波の周波数に相当すると考えます。ただし、その振幅(歪み量)はたいへん小さく、典型的には10-21と言われています。これは1mの距離が10-21だけ変化するような量で、なんと太陽と地球との距離(1天文単位=1億5千万km)が、水素原子1個分(1Å= 0.1nm)伸縮するというようなスケールです。一般的な測り方としては、光のものさし、光の干渉計を用います。最も簡単な例はマイケルソン干渉計で、レーザ光を半透膜のビームスプリッターに照射して2本に分け、同じ長さの基線の先に鏡を置いてそれを反射させ、戻ってきた2本の光の干渉を観察します。干渉の様子が変化したときが二点間の距離が変わった時であり、まさにその時、重力波が訪れたと考えるわけです。

現在世界では、地上と宇宙の両方で、様々な観測プロジェクトが進行あるいは計画されています。日本ではニュートリノの観測で有名なスーパーカミオカンデの近くに、この春から4年後の完成を目指し建設が始まったLCGT(Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope)を推進しています。重力波は極めて微弱ですから、基線はできるだけ長い方が有利ということで、ここでは3㎞あります。年に数回の検出を狙うというように、日本に初めてできる世界第一級の装置ですから、日本もこれで欧米の仲間入りが果たせそうです。

もう一つは衛星を用いた宇宙レーザ干渉計計画で、2025年の打ち上げを目指した日本独自のDECIGO(Deci-hertz Interferometer Gravitationalwave Observatory)です。衛星の場合は、レーザを照射する衛星と、鏡で反射させる衛星二つを組み合わせます。基線を長くできるメリットがあり、DECIGOでは1000㎞。アメリカとヨーロッパが共同して2014年以降に打ち上げが予定されているLISA(Laser Interferometer Space Antenna)では500万㎞あります(イラスト)。みな、電磁波による観測同様、観測したい対象に合わせて様々な長さの波長に対応していますが、今後はさらに様々な波長の重力波に対応した天文学が展開されることでしょう。そしていつの日か、人類がまだ見たことのない時空のさざなみの姿を捉えてみたいと思っています。

私の進路と高校生へのアドバイス

学部時代は理学部で、物性物理を専攻しました。もともと天文や宇宙に関心がありましたから、大学院へ進む際、いろいろな研究室を片っ端から調べました。その過程で重力波という全く新しい分野が生まれつつあることを知りました。新しいものは面白い、何か人ができないことができるかもしれないと、フロンティア精神を掻き立てられた私は、迷わずそこへ進むことにしました。

物理学を研究する醍醐味は、この世にも複雑な世界を、極言すれば単純な1本の式で表せることです。相対性理論などはその最たるものでしょう。大学へ入ってからは、公式をいくつ憶えているかよりも、基本的な式からいかにそれらを導き出せるかが問われます。そのためには高校時代から、何でも自分なりに考えてみることが必要です。またわからないこと、むずかしいことに対しても、とりあえず挑戦してみようという意欲を持ってほしいと思います。「なぜ?」と不思議に思う気持ち、物事の本質を探ろうとする好奇心を大切にしてほしいと思います。

創生科学科

工学部が理工学部へ改組されてから開設された学科の中で、最も新しい学科。

物理学と数理学の理論と方法を基礎として、科学的問題解決の方法・論理を探求し、それを理系・文系を問わない領域に適用、実践する。

全員が問題の本質を見抜いて解決する方法論、『科学のみちすじ』を学ぶのが大きな特徴。3年次では、天文、宇宙を中心に学ぶ『自然』、主にレーザを用いた科学を学ぶ『物質』、ロボットや情報科学を学ぶ『知能』、文化人類学などの文系の学問を学ぶ『人間』の4つのフィールドを選べる。『科学のみちすじ』は『自然・物質フィールド』の先生が考え方を中心に担当し、そのための手段については『知能フィールド』の先生方が主に提供する。この『科学のみちすじ』を4つのフィールドで実践展開する。

Profile
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法政大学 理工学部 創生科学科 准教授

佐藤 修一 先生

1994年京都大学理学部卒業。99年総合研究大学院大学数物科学研究科博士後期課程修了(博士(理学))後、東京大学宇宙線研究所COE研究員、文部省国立天文台COE研究員、自然科学研究機構国立天文台研究員を経て、2008年法政大学工学部准教授。2011年より現職。山形県立酒田東高等学校出身。

※この記事は、大学ジャーナル2011年11月号(Vol.96)に掲載された当時のものです。