進路のヒント ススメ!理系特集

青木淳先生の写真

三次元空間を動かせるインタフェース「スパイダー」 「触れる」プログラムをつくろう! 京都産業大学 コンピュータ理工学部 コンピュータサイエンス学科 青木淳先生

実用化されたばかりの頃のコンピュータには、キーボードしかついていませんでした。それが現在では、数値で五感への情報を作り出す技術によって、モニターでものを「見る」、スピーカーで音を「聴く」ことが可能になっています。では、コンピュータの中のものを「触る」ことはどうでしょうか。実はいま、「触る」技術も身近に広まる一歩手前まで来ています。可触化を実現したインターフェース「スパイダー」について、京都産業大学コンピュータ理工学部の青木淳先生にお聞きしました。

コンピュータの発展の歴史

スパイダーの写真

私が研究しているのは、「可触化」という技術です。これはコンピュータの中で「ものに触れる」感覚を実現しようという試みです。

コンピュータでは、見ること、聴くことが可能になりましたが、触覚については、長い間なおざりにされてきました。最近、iPad のようなタッチパネル系の「触る」インターフェースが登場しましたが、それまではマウスとキーボ―ドだけにとどまっていたのです。

可触化の技術が進まなかったのは、その再現の困難さに一因があります。人間の目は、0.1秒程度の差しか感知できません。それより短い時間で連続表示すると動いていると錯覚します。テンポが少しずれるだけで違和感を覚えるように、耳は0.01秒程度の音の差まで感知できます。

一方、触覚は0.001 秒程度の差さえ感知できるといわれます。みなさんも、ものの表面が平らかどうかを確かめるとき、目で見ても音を聞いてもわからなければ、手で触って確認するでしょう。それだけ触覚は正確なものなのです。

もし触覚をだまそうとするならば、1秒間に2千回ほどモータを動かして微調整し続けないとすぐに違和感が伝わってしまいます。それだけコンピュータにかける負担が大きいのです。可触化の技術は、コンピュータ技術が発展したことで、初めて実現可能になったのです。

スパイダー

(SPIDAR:Space Interface Device for Artificial Reality)

スパイダーの写真

現在主に使われているマウスは平面上を動くだけですが、私たちが研究しているのは、立体的に三次元空間を動かせるインターフェースで、スパイダーと呼んでいます。

スパイダーは8本の糸で釣られた球状で、マウスに相当するボールは上下左右に自在に動かせますし、ひねることもできます。コンピュータのモニターにはスパイダーのボールに相当するものが表示されます。モニター中のボールが壁にぶつかれば、手元のボールもそれ以上先には動きませんし、壁沿いにボールを擦りつければ、手元で摩擦を感じます。

スパイダーを仮想の「手」のように使う研究にも取り組んでいます。上の写真のように、画面上にブロックを表示し、画面の中のボールを接触させると、手でつかんだように持ち上げることができます。このとき手元にはブロックの分だけ重みが感じられるのです。ブロックを別のブロックにぶつけると抵抗を感じますし、さまざまな方向に回転させて、本物の積み木のように遊ぶこともできます。設定を変更すれば、壁やブロックの弾力や摩擦力も自由に変えることができます。スパイダーはとても精巧なつくりで、体験した人の多くが驚きの声をあげます。

今後の可能性

スパイダーにはさまざまな応用が期待されます。たとえば、最新技術がすぐに反映されやすいゲーム。最近では、3Dセンサーをリモコンに搭載してスポーツなどをゲームで再現しています。ところが、この技術にはまだリアルな手応えがありません。これに可触化の技術を利用すれば、現実と変わらない感覚を再現できます。

教育にも応用できます。通常実感することができない万有引力や分子間力といった物理の力も、シミュレーションによって実際に触って体験できるかもしれません。複数のスパイダーをネットワークでつなげば、遠く離れた人同士が握手をするなど、違う場所にいながら、同じものを触る感覚を共有することもできます。

スパイダーは「触る」だけでなく「重み」を感じられるのも大きな特徴です。「情報の重み」を「現実の重み」に対応させて、クレジットカード情報を送信するときにクリックが重くなる仕組みを作ることもできます。また、自由に重さや抵抗を変えられますから、ダンベル代わりに医療の現場で個々人に会わせたリハビリに用いることもできるでしょう。

可触化を実現するインターフェースにはさまざまなものが考えられていますが、スパイダーの利点は、巨大化することが簡単なことです。糸を頑丈なワイヤーにして部屋いっぱいに張り、中央に等身大のぬいぐるみを吊るしてそれをインターフェースにすることもできます。

スパイダーは、可聴化や可視化の技術と組み合わせることで、さらなる可能性を生み出します。インターフェースが三次元空間を自由に動けても、モニターが二次元ではうまく奥行きなどが伝わらないことがあります。3D技術と結びつけば、リアリティが加わるでしょう。空間上のさまざまなポイントに音を割り当てて、スパイダーを動かすことで音楽を演奏することもできます。私たちの最終的な目標は、視覚・聴覚・触覚の完全な融合です。その実現を探りながら、五感に訴えるものと現代世界との関係を考えていきたいと思っています。

高校生へのメッセージ

専門分野を選ぶに際して、メジャーな研究対象ばかりを追ってはいけません。競争相手が多くなりますし、若い時にメジャーなものは、将来時代遅れになっているものです。ぜひ「Minority is the Best」のポリシーで挑んでください。

そして、大人に馬鹿にされてもいいので、子供らしさを持ち続けてください。「こんなものがあったらいいな」という思いを大切にしてほしい。その上で、自分がやりたいことを実現するために、サイエンスがどう役立っていくのかを考えながら勉強してください。

単に暗記やテクニックに頼るような受験勉強では本物の学力は身につきません。今の受験は「これだけやればいい」という発想が多いようですが、大事なのは「これ以外にどのような方法があるだろう」という考えを抱くこと。それを自分で探していくことが、将来の科学と工学の基礎になるはずです。

Profile
青木淳先生の写真

京都産業大学 コンピュータ理工学部 コンピュータサイエンス学科

青木 淳 先生

近畿大学理工学部化学科卒業後、同大学大学院化学研究科博士前期課程修了。就職時にはあえてコンピュータの世界に飛び込み、学部生が4年間かけて学ぶ内容を半年で習得。株式会社SRA米国コロラド州ボゥルダー研究所を経て、京都産業大学へ。新潟県立高田高等学校出身。

※この記事は、大学ジャーナル2011年12月号(Vol.97)に掲載された当時のものです。