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次世代リモコン、タッチパネルなどへの応用で注目を集める、圧電性高分子フィルムを開発 時代が研究に追いついて来た 関西大学 システム理工学部副学部長 電気電子情報工学科 教授 田實佳郎先生

村田製作所が発表したテレビにかざして振るとON、OFF、曲げたりねじったりすることでチャンネルやボリュームを変えられるリモコン。強く押せば素早く拡大し、弱く押せばゆっくり拡大するようなタッチパネルが話題を呼んでいます。

両方に共通するのは表面の透明なフィルム。圧電性高分子(ポリマー)フィルムと呼ばれ、見た目は普通のポリ袋を少し硬くしたようなものですが、中の高分子の組織やその並べ方に特別の工夫がしてあって、圧力を受けるとさまざまな電圧を生みます。自らを圧電性高分子研究の最終ランナーと称する関西大学の田實佳郎教授に、話題のフィルムの仕組みについて、また注目を浴びたきっかけとその経緯、研究の心構えなどをお聞きしました。

テレビのリモコンとパソコン用タッチパネルで製品化へ

村田製作所が開発したリーフグリップリモコンの写真
村田製作所が開発したリーフグリップリモコン

この秋行われた家電やOA機器、電子部品メーカーが集う最大の見本市CEATECで、私が長年に亘って開発してきた圧電性高分子をもとに、村田製作所が開発したテレビ用リモコンとパソコン用タッチパネルが、多くの企業から注目を集めました。たくさんの引き合いがあり、同社では、来秋頃のサンプル出荷を目指しています。

開発されたTV用リモコンが提案したのは、操作を体で覚えるという全く新しいインターフェースです。現在のものはボタンだけでも57個、ファンクションキーは500近くあると言われています。しかしある調査によると、利用者の80%は6種類のボタンしか使っていません。また高齢者にとっては、ボタンの文字そのものが見にくいという欠点もあります。

注目されたのはインターフェースのユニークさだけではありません。開発されたものは自ら電圧を起こし、信号を取り出しますから電池も不要です。また、フィルムを使用したものですから、軽く、しかも劣化もしないためメンテナンスもいりません。TV用リモコンは、長年に亘りモデルチェンジされていませんから、意匠としての斬新さも受けたのかもしれません。

圧電性ポリマーシートのイラスト

このような製品を実現する鍵になったのが圧電性ポリマーシートです。トウモロコシを材料にした乳酸でできていて、成分はごみ袋などに使われるポリエチレンの袋とほとんど変わりません※1。ただ、螺旋状のキラル2高分子を上手にならべて(高次構造制御)、外から引っ張ったり、曲げたりして圧力を加えると、≪ズリ応力≫という力によって電圧を発生させることができます。しかもキラル高分子圧電体は他の圧電体と異なり、方向によって発生させる電位を変えることもできますから、違った性質を持ったシートを何層も貼り合わせれば、さまざまな電圧を発生させられます。今回、村田製作所によって発表されたTVリモコンでは、発生した電圧をIC端子で受け、無線信号に変換しますので、操作の感知には電池は不要ですが、信号をテレビに送るための光電池は搭載しています。

現在、家電やOA機器の製造現場では技術革新の中心はハードからソフトへ、機器本体の機能向上も勿論のことヒューマンインターフェースの向上へと変化しています。透明で軽く、電気を使わず長持ちするという性能は、まさに現代のニーズにピッタリマッチしたのではないでしょうか。また将来、液晶、有機ELをはじめとしたモバイルの操作画面に使えば、丸められるモバイルの実現にも一役買うことができると思います。

※1 ポリ乳酸はポリエステルの一種。成分は炭素に酸素、水素。

※2 左右対象だが、人間の手のひらのように同じ方向では重ね合わせることが出来ないような形状。

時代は変わる

私は大学を出てから30数年、この圧電性ポリマーの研究を続けてきましたが、ここへ至るまでの道程は順風満帆ではありませんでした。特に電子デバイスの世界では、面白さはあるが、実用性に乏しいと、セラミックスなどの影に隠れてマイナーな存在とされてきました。原因の一つは同じ力を加えた時、どれだけ電圧が生まれるかの指標である圧電性、圧電率の低さです。現在でも、かなり向上したとはいえ、圧電素子として一般的に使われているセラミックスの約10分の1です。

ところが最近は、モバイルの急増に見られるように、技術革新の焦点がヒューマンインターフェースに移ってきたため、従来のような大きな電圧より、柔軟性や透明性などが求められるようになりました。特にモバイルではバッテリーをいかに長持ちさせるかが鍵ですから、電流を使わず、しかも少ない電圧で信号が送れることは大きなメリットなのです。

温度によって性質が変化すること、つまり焦電性がないことも、タッチパネルのような接触型センサーではメリットになります。タッチパネルでは、人の体温によって信号が変わると誤作動の原因となり、セラミックスでは長年、焦電・圧電分離問題が課題でした。

このように、圧電性ポリマーはこれまで弱点とされてきたことが、時代が変わることで、長所に転じてきたのです。

また環境にやさしいことも追い風になっています。セラミックスは鋳型を使って成形しますから、形を少し変更するにも高価な鋳型を新たに作らなければならずコストがかさみます。その点ポリマーは、今ではどんな大きさのものでも技術的には作れますから、あとは必要なサイズに切って使えばいいだけです。さらに、セラミックスは製造過程で1~2000℃という高い温度を必要とし、大量のCO2を排出します。しかし植物由来のポリマーは、燃やしても有害物質を発生することもありません。

生体応用でも有望

高分子が螺旋状につながっているポリマーの形状から、DNAを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、まさにわれわれの体をつくっているDNAもキラル体で圧電体です。DNAだけでなく、血管を経由する栄養補給でも電気的な仕組みが働いていますから、私たちの体そのものが圧電体の塊だともいえます。

骨の場合は、骨折するとマイナス電気を発生し、プラスイオンを持ったカルシウムを呼び込み回復を早めます。そこで圧電フィルムを骨の周りに張り付けておくと、人の動きに合わせて大きな電圧を生じ、カルシウムイオンの吸着を促進します。フィルム自体は炭素と酸素と水素しか含まず、役目が終わって体内に吸収されます。

この研究は、今回、電子デバイスが話題になるずっと以前から、基礎的な研究を行ってきました。私の一連の研究から、先を見越した研究をしてきたように思われるかもしれませんが、事実は全く逆です。タッチパネルの考え方が生まれたのは1980年ごろです。しかし今回、共同開発に加わった企業側の研究者たちも、これだけのものが作れるとは当初夢にも思っていなかったと思います。私たちに共通するのは、自分たちが扱っているものが、とても面白いものだという、ただその一点だったと思います。夢中になって一つの物を追いかけている間に、時代が追いついて来たのではないでしょうか。

高校生へのメッセージ

とにかく面白いと思ったものをとことん突き詰めてみることです。それも諦めずに続けること。時代を追うという生き方もあっていいかもしれませんが、反対に自分の好きなことを追求するという生き方があってもいいと思います。

透明なフィルムを引っ張ったり、曲げたりすると、中の高分子が動いて電圧が発生し、それがまた電気信号として外へ出てくる。大きな動きから小さな動きへ、そしてまた小さな動きから大きな動きへ、しかもそれは目に見えません。それだけでも不思議ではないでしょうか。

教科書でDNAの二重らせんを見たことがあると思いますが、乳酸ポリマーもそれに似てとても美しいものです。それを、温度や条件を変えて、並べ替えたり、つなぎ合わせたりする作業はそれだけでも楽しい。楽しければ人は辛くても我慢できます。持続できるから、結果もまたついてくるのです。

現代をよく、閉塞感に満ちた時代だという人がいます。しかし私は逆に、今ほど面白い時代はないと思っています。大きな組織、一流の大学へ行かなくても、優れた研究はいくらでもできます。立派な装置がなくてもできる研究はたくさんありますし、大きな図書館がなくてもインターネットで情報はいくらでも集められます。起業するのにも店舗がいるとは限りません。どこで何が求められているかがつかめればいいのです。発明、発見には企業規模は関係ありません。若い人にとってチャンスは昔に比べて広がっている、と私は思っています。

私の研究も、もしこのような時代でなければ、埋もれていたかもしれません。事実、かつて有力国立大学には必ずあった圧電高分子の研究室は、今ではすべて閉鎖されています。しかし、環境が変わり、今やマイナーな研究が、かえって役に立つ時代になってきたのです。私の研究と同じように、将来に役立つ研究は、全国のさまざまな大学の中にも眠っているかもしれません。

時代は変わるのだということを信じて、自らおもしろいと思えるものをひたすら追求してみるのも一つの生き方だと思います。

Profile
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関西大学 システム理工学部副学部長 電気電子情報工学科 教授

田實 佳郎 先生

1978年早稲田大学工学部応用物理学科卒業。80年、同大学大学院理学研究科応用物理専攻修士課程修了。88年、理学博士(固体物理学)。理化学研究所、早稲田大学、山形大学で圧電性を研究。2004年より関西大学教授、2008年10月より現職。

※この記事は、大学ジャーナル2011年12月号(Vol.97)に掲載された当時のものです。