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いまなぜ学校現場なのか? 求められるのはコーディネート力 佛教大学教育学部教授 学部長 原清治先生

学力問題や若者の就職問題、また教員養成について教育社会学者として精力的に情報発信を続ける原清治先生。この春からは伝統ある佛教大学教育学部の学部長としてそのマネジメントにも力を注がれている。これからの教員に求められる力についてお聞きするとともに、佛教大学の教員養成の特色についても語っていただいた。

優れた教員になれるのはどのタイプ?

近年は教育課程に定められた教育実習だけでなく、学校ボランティアやインターンシップ、初等・中等教育との連携事業などで、早くから学校現場を体験する学生が増えています。当然その中で、彼らは指導上の問題や疑問にぶつかるわけですが、その時の反応はおおむね、次のような3つのケースに分けることができます。

一つは、それを一緒に行っている仲間に相談しみんなで考えようというケース。もう一つは、仲間だけでなく、派遣先の先生にも相談してみるケース。そしてもう一つは、その上でさらにそれを大学の先生にも相談し、理論的な解釈や解決のための裏付けを求めるケースです。

すでにお気づきのように、私が行った調査では、将来教師として一番伸びるのは、3番目のケースの学生です。1番目の学生は友達同士でコミュニケーションを取れるのはまだしも、視野が狭く、何事も自分たちの価値観で判断しようとしますから、必ずどこかで失敗します。2番目のケースの学生は、視野を広げられるとともに、現場の先生との人間関係も築けますから将来有望です。しかしさらに有効なのが3番目のケースです。研究者からもアドバイスを受けることで、自らの経験を一つのケーススタディーとして普遍化でき、しかも学問的に裏付けのある対処法も身につけられます。こうした訓練を積み重ねることは、将来、経験のないケースに出会っても、適切に対応できる力を養ってくれます。

いまなぜ現場重視なのか

ところで近年は、このような比較調査ができるほど学生を早目に現場で経験させる大学が増えています。国や教育委員会も、大学生の段階で早くから学校現場を知ることを、≪実践的教員養成≫、あるいは≪実践的指導力を身につけた教員の養成≫につながるとして盛んに後押ししています。教員養成が、現場や今の子どもたちの姿や形を知ることを原点にしなければならないのは当然ですが、近年のこうした流れには、教員養成の置かれた特殊な事情があります。それは現在の教員の年齢構成のゆがみです。

ここ2、3年、学校現場では人数の多い団塊の世代の教員が定年を迎え、その補充のために新人教員の大量採用が行われてきました。しかしこれ以前には、採用数は極端に絞られていましたから、ベテランである50代の教員と新人との間の世代が大きく抜け落ちています。この世代間ギャップを埋めるには、50代の教員が自分たちの経験知を早急に伝えるなど、新人教員の早期育成が不可欠です。しかし新人の人数が多いことと、一方で、管理運営業務を一手に引き受けなければいけないこともあって、彼らに時間的なゆとりのないのが実情です。そこで、とりわけこの傾向の著しい大都市部では、こうした混乱を避けようと、これまで以上に即戦力となる教員を求めるようになってきたのです。もちろんこの間の事情は都道府県や市町村によって温度差はあります。しかし教員養成に対するこのような考え方が、現在の国や教育委員会の中で大きなうねりになっているのはまちがいありません。

コーディネート力、つなげる力

このような状況の中で、私は教員に求められる資質についても、これまでのような学業成績、人格ともに優れていることに加えて、逞しい人間力や人と人とをつなげる力、つまりコーディネート力を付け加えるべきだと考えています。自分の価値観はともかく、相手の価値観を受け入れ、他者と十分にコミュニケーションのとれる力、情報を発信するだけでなく、相手の主張に耳を傾け、その上で十分に対話できる力、そして何よりもフェイス・トゥ・フェイスでよい人間関係の作れる力です。冒頭の例でいえば、派遣先の先生方、そして大学の先生に自分の感じた疑問を素直にぶつけ、進んでアドバイスをもらおうとする学生のイメージです。これは、近年、大学生が卒業までに身につけておかなければいけないとされる社会人基礎力や就業力、あるいはジェネリックスキル※1などにも通じるものだと思います。

そもそも入試の難易度、あるいは高校までの学業成績と、いい教員になれることとの間には、必ずしも一定の相関があるわけではありません。もちろん教師である以上、知識の伝達は大きな使命ですから、学業成績がいいのにこしたことはありません。しかしいくら成績がよくても、コミュニケーション力に欠けたり、人が話しかけるのを待っていたりするようでは教師としては失格です。多様な子どもたちがいますから、さまざまなタイプの教師がいることも確かに大事です。しかし自分の内に閉じこもりやすい若者が増える中で、即戦力の期待に応えようと思えば、学業成績以上に、人と人とをつなぐ力、コーディネート力を備えていることに期待が集まってくるのは当然だと思います。

コーディネート力を身につけるには、現場をありのままに受け入れることが必要です。いわゆる「空気を読む」のではなく、嫌いな人間にも合わせて行かなければならないのです。たとえストレスが増えようが、他人と真正面に向き合うことを避けていてはコーディネート力は育まれません。カリキュラムの観点からいえば、これまでのように理論を学ぶだけでは決して身につくものではないのです。

よく子どもが好きだから、子どもと関わりたいからといって入学してくる学生もいます。しかしそんな平板な言葉以前に、まずは人として人間同士をつなぎとめる力ありきだということを、高校時代から自覚しておいてほしいと思います。

※1
社会人基礎力:経済産業省が2006年から提唱する。≪前に踏み出す力≫、≪考え抜く力≫、≪チームで働く力≫の3つの能力(12の能力要素)から構成されるとする。≪職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力≫
就業力:文部科学省による。平成22年2月に「大学設置基準」が改正され、全ての大学でキャリアガイダンスが必修化された。各大学は教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に関する指導などに取り組む体制を整えることとされている。
ジェネリックスキル: 学部・学科や専門分野を問わず、学士号に汎用的にふさわしい、能力・スキル・態度特性などを包含する概念。

佛教大学の教員養成のポリシーとその取り組み

本学では、現在の学校現場の置かれている状況をいち早くキャッチし、現場のもつ教育力を教員養成に生かそうと、2005年『公立学校を起点とする小大連携プログラム――理論知と実践知の融合』を立ち上げました。大学が小学校と連携して、学生を京都市内の小学校へ学校ボランティアとして派遣し、現場のサポートをさせるとともに、学生にも教育実践の機会を与えようというもので、国からもすぐれた取り組み(教員養成GP)として認められました。

学生たちは、一年の一学期早々から板書指導を受けるなど、現場へ出る準備を始め、早い段階で学校現場へ出ていきます。現場では先生のサポートをしたり、課外授業を担当したりして、その経験を大学へ持ち帰ります。大学では従来型の講義に加えて、この体験をベースに理論を学ぶような機会が用意されていて、学生たちは現場での気づきや、肌で感じた疑問を持って先生と対峙し理論と実践の融合を図ります。そしてここで得られた知見は、さらに次に現場に出る際のよりどころになるわけです。こうした現場から座学へ、座学から現場へという往還を4年の間に何度も繰り返すことで、実践知と理論知とが融合され体系化され、実践的指導力がスパイラル状に高められていくのです。同時にこのような取り組みは、学校現場からは、人手を補うということから、また学生のフォローを大学が担うことで、学校に過度の負担がかからないという点から、大いに歓迎もされています。

教員採用試験対策については、取り立てて特別なことをしているわけではありませんし、採用率の数字に一喜一憂することもありません。ただこれまで実績を積んでこられたのは、教員養成課程を持つ大学は、教員委員会から常に連携を組める大学として信頼されることが最も大事だというポリシーを、一貫して持ち続けてきたからではないかと思っています。また、長年に亘って多くの教員を学校現場に輩出してきた通信教育課程※2の存在も見逃せません。実際、学校現場を回っていると、職員室などで、私も佛教大学で養成課程を修了しましたと気軽に声をかけてもらうことがよくあります。こうした佛大ファミリーとでもいうべき存在は、本学の卒業生が教員になっても大きな支えになってくれているにちがいありません。

具体的な試験対策としては、2006年に教職支援センターが設置されて以来、常に10人ほどの校長経験者が、きめ細かく学生のサポートに当たっています。また『佛大教師塾』に象徴されるように、空き教室などを使って有志で研鑽し合う小さなサークルがたくさんあるのも本学の特徴です。そこに先輩が立ち寄って、様々なアドバイスをしている光景を見ることも珍しくありません。また、宗教精神を建学の理念とする大学ですから、学生同士がお互いに対して優しく、自分だけ試験に通ればいいという雰囲気は一切ありません。通るならみんな一緒にという団結力は、見ていてとても微笑ましいものです。

※2 開設は1953年。学部(本科)では3万人以上の卒業生を送り出し、2010年5月現在では、約1万4000名が在籍していて、私立大学の通信教育課程としては国内有数の規模を誇る。

教員を目指す高校生へ

時代や状況が大きく変わる中で、学校の在り方や教員に対する社会の目線も大きく変化してきました。しかし、教員は今でも人から感謝され、社会的な評価も高い存在であることには変わりありません。全国学力テストで毎回成績上位の秋田県や福井県にお邪魔すると、昔と変わらない教員に対する人々の目線が今でも残っているのに気づかされます。

誇りとそれだけの覚悟をもって、教壇の高さを自覚できる教師を目指してください。

Profile
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佛教大学教育学部教授
学部長

原 清治 先生

神戸大学大学院博士後期課程修了、博士(学術、神戸大学)専門は教育社会学、教師養成、長野県立諏訪清陵高等学校出身。

主な著書・論文:『若年就労問題と学力の比較教育社会学』(単著/佛教大学研究叢書)、『論集 日本の学力問題〈上・下巻〉』(共著/日本図書センター)、『学歴と就労の比較教育社会学―教育から職業へのトランジションII』(共著/学文社)、『使い捨てられる若者たちは格差社会の象徴か』(共著/ミネルヴァ書房)、『教師 魂の職人であれ』(共著/ミネルヴァ書房)、『教育から職業へのトランジション-若者の就労と進路就職選択の教育社会学-』(共著/東信堂)等多数。