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「大いに学ぶ覚悟」を持って教員を目指そう 千葉大学教育学部教授 藤川大祐先生

学校を取り巻く環境が激変する今、教師には人間としての総合的な力が求められる

近年、学校を取り巻く環境は激変していています。誰でも自分の考えを発信できる情報社会は、学校へのクレームを増加させ、要望を多様化させます。学校はそれに対して的確に情報発信をするなり、広報していかなければなりませんが、右往左往しているのが現状です。国の教育政策も揺らいでいます。生きる力を強調する一方で、学力重視も打ち出されました。教員としてはどこに重点を置いて指導に当たればいいのかがわかりにくくなっていますが、現場においてはあたかもスーパーマンのように、何事にも対応できることが求められています。一方、教員の採用状況は倍率が低くなってきており、これは今後10年から15年くらいは続くと見込まれます。団塊の世代の退職者が出る時期にあたり、特に都市部では教員不足にさえなってくるからです。こうした状況の中で、大学では教員養成についてどのように考え、実践しているのか。また、教員を目指す若者にかける期待とは。「教育界は大胆な方向転換が必要で、いまが正念場」という千葉大学教育学部の藤川大祐先生にお話をお聞きしました。

きちんと授業ができて当たり前。最初から一人前が求められる

教員養成はこれまで、4年間で見習い程度の教員を育て、あとは現場で育ててもらえばいいという方針で行われてきました。しかし現在では最初から一人前であることが求められ、たとえば小学校では大学を出ていきなり担任を持たされたりします。授業はできてあたり前で、その上で集団を統率し、学級経営ができなければなりません。しかも教員養成課程の修業年限は4年のままですから、それに応えられるような総合的な力量を養成することは、大学にとってそれほど簡単ではないというのが実状です。

こうした状況の中で、千葉大学では、少しでも早い時期から、教員として授業をする際のイメージを持ってもらおうと、広く浅くではありますが実践的な取組みを用意しています。たとえば、実際の授業の様子をビデオで見て分析する「学校と教育」や、授業見学に出向くとともに、指導案を作って人前で模擬授業をし、それを後からビデオで相互にチェックする「授業研究入門」などです。また、教科としての音楽ではなく、学級経営に合唱を生かそうという「クラスと合唱」など発展的な授業もあります。

子どもが使っているメディアも意識しておかなければならないということから、メディアリテラシーやディベートの授業も開かれています。従来の学校の常識は情報を外に出さないことでしたが、今や何をどう発信するかが大事です。また、子どもはこれまでは素直に学ぶだけでよかったのですが、いまは膨大な情報に対して疑ってかかることも教えなければなりません。大人も同じですが、メディアの特質を批判的に学び、発信するすべを身につけることが必要なのです。
たとえば、一つの情報に対しても、その根拠を考え、きちんと説明できる、あるいは説明してもらうようにすることが大切なのです。

私が担当しているものには、将来、学校で行うキャリア教育の指導法を学ぶものもあります。これには、中学2年生に職業紹介をするという想定で学生がプレゼンテーションを行うものや、千葉市と連携して商店街に小学生を集めてイベントを盛り上げる「西千葉子ども起業塾」という演習があります(コラム)。

NPO法人企業教育研究会

2003年に、学生の要望を受け、企業と連携して学校現場で社会貢献活動が行えるようにと発足しました。学生が授業だけでは学べないことを経験し、人間的にも成長することが狙いです。現在、参加者は1年生から院生までの約25人で、学生は企業と一緒に小学校や中学校で出前授業を行ったり、教材を開発して無償で学校に提供したりしています。

出前授業の一つである「ことばの授業」では、新聞記者と学生が現場の先生に即興でインタビューします。そしてその様子を見て学んだ子どもたちが、地域の人にインタビューしてそれをまとめます。これは国語だけでなく、総合的な学習の時間や社会科の勉強にも役に立ちます。

また、通信事業者の協力を得て、テレビのケータイ啓発ドラマをDVDにした教材には、学生たちが作った指導案をつけています。入学したばかりの学生は主に普及活動を担当し、学校でデモンストレーションをするなどの見習い程度の内容から始めます。これは先輩たちが作った授業を経験することになり、自分が勝手に思い込んでいた授業をするのを防ぐことにつながるので、授業力の向上につながります。また、企業の人との交流や、学校の先生たちと対等な立場で話すという経験は、その後の学生生活にも生きてきます。力がついてきたところで開発に加わり、新しいテーマにも取り組みますが、実践的な教材開発力や授業を作る力を高めるのに大いに役立っています。

社会に関心を持ち、幅広い視野を持った教員に

千葉大学の卒業生には、授業に自信を持ち、柔軟な考え方を持った人が多いと感じます。まわりの先生とチームワークを取るのも上手で、大変なクラスを任されても少々のことではへこたれないようです。また自主的に研修もしていて、勤務している学校の外にも目を向けていると思います。

学生たちの間でも学びあいを行う姿を頻繁に見かけます。社会活動にも積極的で、東日本大震災の後には、福島県田村市向けの支援活動プロジェクト「SAVE TAMURA」を立ち上げました。

現地に行かなくてもできる支援活動はたくさんあるとの判断から、田村市内のすべてのガソリンスタンドに電話して開業状況を調べ、それをWebページやツィッターで流したり、さらに住民の思いを電話取材して公開もしました。こういうことはあまり効果がなさそうに見えますが、被災者が孤立感を持たないための支えとしては重要な取組みです。5月には1泊2日で現地に行って学校の校庭で放射線量を測ることもやり、学内でその報告会を開きました。千葉県内の被災地支援では、千葉大生向けにボランティア情報を提供し、現地とのミスマッチを少なくする活動などを行っています。

教員採用試験対策では、大学として独自に講座を用意していますが、学生たちは自分たちでも自主的に取り組んでいます。ただ、私は、採用試験のことしか頭にない人は教員になる資格はないと考えています。学生時代は、ボランティア活動に限らず、哲学の本を読むなど幅広く様々なことに取り組むことが大事です。学校を取り巻く状況が厳しくなればなるほど、学生時代にいろんなことを体験し、実践して、ようやく教員として安心して送り出せるようになるというのが私の実感です。

高校生へのアドバイス
視野を広げ、「大いに学ぶ覚悟」を持て

「子どもが好き」「先生にあこがれて」ということで教員を目指す人が多いのですが、教員の世界は、それだけでやっていけるほど甘くはありません。教育とはさまざまな学問がトータルな形で求められるものですから、高校時代からたくさんのことを幅広く学ぶ姿勢が必要です。

教育界の現実を知るために、教育に関する本も読んでください。たとえば、「授業の復権」(森口朗著、新潮新書)や、手前味噌ですが「ケータイ世界の子どもたち」(藤川大祐著、講談社現代新書)などがお薦めです。

小学校教員を目指すのなら、苦手な科目や受験科目以外についても勉強しておくことが大事です。自ら苦手科目を克服した体験は、必ず指導の場面で生きてきます。中学・高校の教員を目指すなら、好きな科目は徹底して学ぶことです。中高では、教科に強いということが基本になるからです。

社会の様子にも敏感であってほしいと思います。そのために一番いいのは新聞を読むことですが、それができなければ、ネットで自分なりのアンテナを張るのでもいいでしょう。

時間に余裕があれば、教育関係の催し物にも参加してほしいと思います。文部科学省が支援して各地で開催される「リアル熟議」、千葉大学で開かれている「千葉授業づくり研究会」、「メディアリテラシー教育研究会」、ベテラン教員が若手教員に指導する「明日の教室東京分校」などは高校生でも参加できます。

いま日本の教育界は大胆な方向転換が求められていますが、おそらくこれから10年くらいが勝負だと思います。学校教員にとっても厳しい状況が来るかもしれません。教員を目指す皆さんは、そんな時にも動じない力をつけるよう「大いに学ぶ覚悟」をもって大学に進んできてほしいと思います。

Profile
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千葉大学教育学部教授

藤川 大祐 先生

1965年東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学(教育学修士)。金城学院大学助教授等を経て、2001年より千葉大学勤務、2010年より千葉大学教授。NPO法人企業教育研究会理事長、日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)理事長などもつとめる。メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業、企業との連携授業など、さまざまな分野の新しい授業づくりに取り組んでいる。2005年、千葉大学ベストティーチャー賞を受賞。専門は教育方法学、授業実践開発。

著書に『企業とつくるキャリア教育』(教育同人社)、『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書)、『学校・家庭でできるメディアリテラシー教育』(金子書房)などがある。