進路のヒント 先生になろう!

菅正隆先生の写真

今から英語に強くなろう 小学校で英語を教える時代を迎えて 大阪樟蔭女子大学児童学部教授 菅正隆先生

今春から、小学校では「外国語活動」の時間が必修化され、「外国語」を原則、英語とすることから、いわゆる小学校英語が正式に導入されることになりました。"日本も国際化に向けて、小学校から英語教育を"の長年の構想がようやく一部実現されたのです。一昨年まで文部科学省の教科調査官として、小学校英語導入のための推進役を務めてこられた菅先生に、ご自身の英語教育との関わり、小学校英語導入の経緯やその目指すところ、そしてこれから小学校の先生を目指す高校生にアドバイスをいただきました。

これまでの英語教育の問題点

公立小学校でも英語を教えようというのは、20数年来、日本の初等教育の大きな課題でした。中学・高校と6年間も英語を学んでも、多くの人が英語を「聞けない、話せない」からです。そのためには、もっと小さい時から英語というものに慣れ親しんでおく必要があるのではないか。また、中国、韓国、シンガポールなどでは、すでに小学校での取り組みが本格的に行われているということもありました。

そもそも日本人が英語を苦手とするのは、日本語の構造が英語と全く違うことや、英語を使わなければならない環境が日本には極めて少ないということ以外に、中学や高等学校で〝正確さ〟を求めすぎてきたことにも原因があると私は思っています。三単現のs が抜けているから0点、などは典型的な例で、こういうことが強調されるあまり、外国語を学ぶ上でもっと大切な、相手とコミュニケーションを図るという姿勢を育ててこれなかったのではないかと思います。

今回の外国語活動では、こうしたこれまでの中学、高校の英語教育の反省の上に立って、異文化に触れ、同時に音声中心に英語に親しむことで、英語が苦手な日本人を少しでも減らそうということに重きが置かれています。導入にあたっての道のりは決して平坦なものではなく、私自身、ずいぶん辛く厳しい経験も味わってきましたが、将来の教科化へ向けて大きな布石が打てたことは間違いないと思っています。

※小学校英語は今回の学習指導要領では、外国語活動の時間とよばれ、道徳の時間等とともに、教科ではなく領域として扱われています。

育てたいのはコミュニケーション能力

私は元々、大阪の府立高校で英語を教えていました。英語が苦手で授業にも興味を示さない生徒が多かった学校で、日本で初めて、教室に国際電話を引いてもらい、生徒に直接、外国の動物園等さまざまな場所に電話でインタビューさせたこともあります。効果はてき面で生徒は英語に興味を持ち始め、成績も次第に上がるようになりました。これは当時マスコミにも取り上げられるなど、かなり話題になりました。反対に教科書を使わないで授業することが話題になって、文部科学省を驚かせたこともありました。その後教育委員会に入り、その中で少しずつ小学校英語との関わりがでてきました。

ちょうどその頃、本学OGで小説家として著名な田辺聖子先生とお目にかかることがありました。先生は「今の子どもたちは、言葉を知らないのでかわいそうだ。本を読まないから言葉を覚えない、また異なる年齢の人たちと言葉を交わす機会もめっきり減ってしまっているのもその原因だ」という意味のことをおっしゃいました。私はそれを聞いて、今の子どもたちに必要なのは、言語力・コミュニケーション能力の育成であることに気づかされました。そして同時に、そのためには国語教育だけでは不十分ではないかとも思いました。国語は小学1年生から習いますから、学年が進むにつれ能力差が生じます。また、高学年になるに従って、今さら日本語でコミュニケーションの訓練をするのもかなり無理がある。ちょうど小学校英語について考えていた時でしたから、英語でなら、全員白紙の状態ですし、同じラインに立って始めることができるのではないかと思ったのです。

先生は自信を持とう

必修化の影響を一番受けているのは現場の先生方です。前回の学習指導要領の改訂以来、多くの学校で小学校英語は実践されてきたにもかかわらず、先生方の多くが「指導に自信が無い」「英語は専門の先生が教えるべきだ」という意見を持っています。実際、公立小学校の教員で、中学校の英語の免許を持っている人は全体のわずか3.7%、私立でも4.0%に過ぎません。

ただ、冷静に考えてみればわかるように、5年生で年間35時間、6年生で35時間、計70時間という時間数で英語の力が十分身に付くとは考えられません。つまり今回の必修化にあたっては、英語を教科として教えるのではなく、英語を一つのツールとして、人と積極的にコミュニケーションを図ることを教えることが重要なのです。「外国の人とでもコミュニケーションを図るのは楽しい」「自分の伝えたいことが相手に伝わった」などと子どもたちが体験することが重要ですから、先生方にとって一番大切なのは、一生懸命英語を使おうとする姿勢を子どもに見せることなのです。

保護者の間には、英語は専門の先生やネイティブ・スピーカーの先生に教えてほしいという要望も根強いようですが、本来の目的がスキル中心の指導ではない以上、指導に当たるのは、やはり児童のことを一番理解している担任の先生をおいて他にはいないと思います。日本の小学校の先生方の指導力は、世界的にも高い水準にありますから、先生方には自信を持って指導にあたってほしいものです。

これから小学校の先生を目指す人に

小学校英語は、次の学習指導要領の改定時には、小学校3年からとか、教科化が目指されることになるかもしれませんが、政治的な問題や、財政上の問題もあって先行きは予断を許しません。ただ、お隣の韓国ではすでに小学3年から必修とされていますし、中国でもそれに近い状態ですから、日本だけが今後何十年も、現在のやり方を続けるわけにもいかないと思います。ですから、これから小学校の先生を目指そうという人は、英語についても十分な指導力が発揮できるよう、今から英語の勉強にも力を入れておいた方がよいと思います。ちなみに韓国の小学校の先生は、英語指導に関して、当初、年間120時間というハードな研修を受けなければならなかったのです。

これからの世の中では、英語とコンピュータが使いこなせなければ幸せにはなれない、というのが私の持論です。今や外資系に限らず、会議を英語で行う企業も少なくないようです。あれほど母国語にこだわっていたフランスでさえ、EU圏内での経済用語としての英語の重要性を認めており、公立小学校でも児童の約90%が外国語として英語を選択しています。グローバル化社会において、英語が使えないということは、確実に競争に遅れをとることを意味するのです。

そんな時代に生きる子どもたちを育てる先生方にとって、私は、自ら英語の力を高めておくことはもはや避けて通ることのできないことではないかと思うと同時に、そのことは、先生自身の身を助けることにも必ずつながってくるに違いないと思っています。

サクラ外国語活動

株式会社サクラクレパスの協力を得て、外国語活動に関して、小学校の先生方をサポートするウェブサイトを運営しています。このサイトでは授業で使える教材やイラストを無料でダウンロードできる他、実際の授業の様子も動画で見ることができます。また、市販の外国語活動用教材の紹介や、先生方の悩みに応えるQ&Aコーナー、外国語活動に関するコラム、研修会や講演会などのイベント情報なども無料で公開されています。

私の監修の下、コンテンツを制作しているのが私のゼミ生を中心とした大阪樟蔭女子大学の学生。全くのボランティアですが、彼女たちは使命感に燃えて取り組んでくれています。私はこの4月から大阪府の英語顧問に就任しましたから、大阪の企業であるサクラクレパスさんをこれまで以上に応援していきたいと思っています。すべてのコンテンツが無料ですので、ぜひアクセスしてみてください。

Profile
菅正隆先生の写真

大阪樟蔭女子大学
児童学部教授

菅 正隆 先生

1958年岩手県生まれ。大阪外国語大学イスパニア語学科(現大阪大学)卒業。1984年~2001年まで大阪府立高校の英語教諭を務める。1997年~2001年大阪府教育委員会指導主事、2001年~2005年大阪府教育センター指導主事(2002年からは主任指導主事)、2005年~2009年文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官。2009年より現職。『英語好きっ子を育てる70のアドバイス』(小学館)、『日本人の英語力』(開隆堂)など著書多数。