進路のヒント 先生になろう!

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まず自分が楽しむこと 高校時代は大いに学んで、大いに遊べ 佛教大学教育学部教授 髙橋司先生

「幼稚園、保育園では、改革の最大の焦点である≪幼保一元化≫は、政局の混迷もあって不透明感を増しています。しかし平成20年には「保育所保育指針」と「幼稚園教育要領」の整合性がこれまで以上に図られるなど、改革も進みつつあります」、こう語るのは佛教大学教育学部教授の高橋司先生。幼稚園一家に育ち、中学3年時の、〝将来は幼児教育関係者になる〟との公約を果たされた髙橋先生に、期待される先生、保育士像やご自身のご専門などについてお聞きしました。

私の研究と実践

この時期の京都の和菓子と言えば、ういろうの上に小豆を乗せた水無月が有名ですが、これは夏を迎えたこの時期、暑気払いのために氷室に蓄えてあった氷を取出し、朝廷や幕府に献上した故事に因んだもので、ういろうは氷の代わりで、邪気を払うとされている小豆をその上に乗せてあります。食べる前にこんな説明をすると、甘いものがあまり好きではない子どもも目を輝かせます。

幼児の発達を言葉の獲得の面から捉え、それを現場の指導にどう生かすかを考えるのが私の専門ですが、このような故事来歴や伝統、それに年中行事を調べてわかりやすく説明するのも大事な取組の一つです。また近年は、『桃太郎』の中に登場する動物を知らない学生も増えていますから、こうした取組は日本の伝統や文化を継承する上でも欠かせないものだと思います。

研究の出発点は主に語りで、絵本や紙芝居ではなく、素話や口演童話や昔話、それに同じ宗門の京都家政短期大学( 現・京都文教短期大学)の教授で、附属幼稚園の園長をしていた父が作った言葉遊び(「おちたおちた」※1)などが研究対象です。虚構の世界へすっと入れるのが幼児期の特徴ですから、言葉遊びや読み聞かせを通じて情操を育むことが幼児教育の本来の姿であると、私は思っています。小さい子どもは、虚構の世界を作っていく楽しさを味わいながら、言葉の豊かさに触れ、将来の日本語の土台になるものを作っていくのです。それはまた、その先で外国語を学ぶ際にも生きてくるはずです。この他に私は、自身が実践するものとして、昔の紙芝居のように絵も使って物語を語り聞かせるパネルシアター※2にも力を入れています。

私は、大学院では家庭生活、遊び、児童観の変遷など、子どもの社会生活史を専攻しました。同時に本学附属幼稚園の開設に立ち会い、修了後そのまま主事を努めました。その後、大学へ戻りましたが、2009年には岐阜県の私立大野クローバー幼稚園(揖斐郡大野町)の開設に携わり、現在も顧問を務めるなど、これまで幸運にも、教育・研究と現場の両方を経験することができました。

いま、幼稚園、保育園を就職という観点から見ると、小・中学校と比べて、これまでもずっと恵まれてきたといえます。もちろんこれは、短期大学を出た若い先生方の、職場での新陳代謝が盛んだったことにも助けられています。しかし近年は、保護者の高学歴化、保育を巡る諸問題の複雑化などから、大学卒の人材が積極的に求められるようになってきていますから、送り手側も受け入れ側も、産休や、育休の制度をもっと活用した息の長いキャリアというものを考えていかなければならないと思います。また現場で一定期間経験を積んだ後、非常勤講師などの立場で大学へ戻り、実践の成果を研究へフィードバックしてもらうことも考えるべきだと思います。

これからの幼保と求められる人材像

かつて≪小1プログラム≫が大きな話題になったことがあります。小学校へ入学したばかりの子どもたちが、授業中ずっと座っていることができず、立ち歩き、先生もそれを制御できないといった現象です。「幼稚園教育要領」が25年ぶりに平成元年に改訂※3されましたが、保育者は指導者ではなく≪援助者≫と位置づけられました。小学校で≪指導から支援へ≫といわれたのと同じことが幼稚園でも起きたのです。また「保育所保育指針」は、平成20年の改訂までは「幼稚園教育要領」改訂後に、それに準拠して行われていましたから、こうした流れは保育園にも及びました。

この間、小・中学校ではゆとり教育が全盛で、その弊害も指摘されるようになりました。そしてついに、今春からは≪脱ゆとり≫をめざして新しい「学習指導要領」が実施されるようになったわけです。

幼稚園では平成10年に改訂が行われ、保育者について、「援助者」という言葉はそのまま残されたものの、「理解者」「精神の拠り所」「共同作業者」そして「モデル」という言葉が加わりました。最後の「モデル」とは、保育者は指導に当たって、これまでのようにすべてを子どもの自発的な意思に任せるのではなく、自ら前に立てということを言っていると解釈できます。

私自身、子どもと遊んでいて一番嬉しいのは、≪先生楽しんでいるね≫と言われることです。これも一つのモデルです。最近は、「どんな遊びが必要ですか、折り紙ですか、ピアノですか?」というように、保育技術を先に聞いてくる学生も少なくありません。しかし幼児教育で一番大切なことは、あそびを通して活動することですから、そのためにはまず、自分自身が遊ぶ楽しさを知っていなければならないと思います。

幼稚園の先生や保育士を目指す人たちに伝えたいのは、「まず遊べ、そしてたくさん人と話をしよう、そしてできるだけいろんな経験をしてほしい」ということです。そこから確固たる保育観、子ども観を形成することが大切になります。技術はそのあとゆっくり学べばいい、後からついてくるものなのです。

幼保界の将来を展望する

現在のような政治情勢では、いつまでたっても当初考えられたような≪幼保一元化≫は実現しそうにありません。このままでは幼稚園と保育園、それに認定こども園とそうでないこども園というように、何種類もの施設が並立するような状況にもなりかねません。

そもそも子どもの問題に、未だに縦割り行政で対応しようとするのが不自然なのです。こども園を増やすという構想が示されて以来、学生には、幼稚園教諭と保育士の2つの免許・資格取得が求められていますが、そのためには多くの単位を修得しなければなりません。これでは学生の負担が大きく、遊ぶ楽しさを経験する時間も犠牲になります。やはり、一度すべてをご破算にして、子どもを真ん中において、もう一度ゼロから≪一元化≫について考えるべきだと思います。

※1 かつて、民放の1時間番組でも盛んに使われたことがある。
※2 主に不織布で作ったパネル布を貼った舞台に絵や文字を貼ったり?がしたりしながら、お話しや歌あそび、ゲーム等を行う教育法。1973年に浄土宗西光寺の住職、古宇田亮順によって創案されたのもので、現在では多くの保育園・幼稚園・小学校などで実演されている。
※3 平成元年の改訂で、保育内容がそれまでの健康、社会、自然、言語、音楽リズム、絵画制作の6領域から、健康、人間関係、環境、言葉、表現の5領域に変更された。

Profile
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佛教大学教育学部教授

髙橋 司 先生

1949年、京都市生まれ。佛教大学附属幼稚園主事・副園長を経て、現在に至る。専門は幼児教育、児童文化。大谷大学講師、華頂短期大学講師、龍谷大学短期大学部講師などを兼任。児童芸術研究所主宰。大野クローバー幼稚園顧問。

主な著書に『子どもに教える 今日はどんな日?』(PHP研究所)『乳幼児のことばの世界~聞くこと・話すことを育む知恵』(宮帯出版社)、共著に『年中行事 遊びと話』(探究社)『年中行事なるほどBOOK』(ひかりのくに)他多数。