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<コラム>「総長の発信力 - 東京大学、京都大学、早稲田大学」- その1 早稲田大学 鎌田薫総長

キュレーター 後藤健夫

 先月、早稲田大学の第16代総長である鎌田薫先生の「総長就任記者会見」に出かけた。鎌田さんは、私が関わった早稲田大学法科大学院(大学院法務研究科)の2代目研究科長であり、かつての私の上司である。記者会見に現れた鎌田さんの表情は緊張して硬い。所信表明を終え、記者との質疑応答。どんな質問が飛び出すかわからない場面である。久しぶりに記者側に座る私は教授会に陪席している気分だ。教授会では議事を通すためにはうるさ型の教員を説得しなければならない。そのやりとりに似ている。質疑を終えると懇談会を兼ねた名刺交換会。料理が用意されているにもかかわらず、懇談会の主は名刺交換に並んだ列を丁寧に消化していて、懇談、会食どころではない。あっという間に予定の時間が過ぎ、鎌田さんは総長室職員に囲まれて会場を後にした。この間、鎌田さんの表情が崩れることはなく硬いままであった。

 その夜、法科大学院の卒業生に記者会見の様子を伝えると「あの鎌田さんが緊張するとは」と驚いていた。我々職員に対しても、学生に対しても、物静かではあるが、いつも気さくに応えてくれる鎌田さんが緊張を崩さない。それが総長職の持つ重さなのか。

 法科大学院の研究科長だった頃、鎌田さんは学生たちと一緒によく飲みに出かけた。法律を深く学ぶためには議論は欠かせないが、そこでは研究科長という職責を取っ払うかのように、自由闊達に学生らと議論をした。その中から、学生が主体となったレビュー誌が生まれ、研究科運営や授業の改善がなされた。この総長職という重さが馴染むまでは、こういった自由闊達な学生らとの議論も、いましばらくは御預けか。

 いま、早稲田大学のホームページを見ると、鎌田さんの11月の行動が掲載されている。就任記者会見以来、1日も休まず、西に東に動いている。金沢に、大阪に、高松に、そして台湾に。それぞれの校友会(卒業生組織)を訪れている。その合間に、政府の会合、学内の行事、会議…。さらに、今年は野球、ラグビーとスポーツが強い。その祝勝会でねぎらいの言葉を掛けるのも総長の仕事である。年初には優勝が期待される箱根駅伝もある。年の瀬から年初にかけて、ますますお忙しいことだろう。

 法科大学院の学生たちが鎌田さんと飲みに行くと必ず誰か彼かが鎌田さんに尋ねた。
 「「民法ノート物権法<1>」の次の本は、いつ出るのですか?」
 総長職という人並み外れた忙しさで、学者としての活動は、いましばらく御預けか。

 鎌田さんは、今回、大学の理事を経ないで、総長になった。そのため、当面は前理事会を踏襲しながら安全運転に努めるだろうから、総長としての独自色を出すにはまだまだ時間がかかるだろう。だから、こちらもまだまだ御預けだろう。
 しかし、大学を取り巻く状況に鑑みると、こちらはそう長くは待てない。少し落ち着いたらどんどん発信してもらいたい。発信する力はもちろん十分にある。そして、発信できるものもたくさんあるはずだ。学生らとの議論のように自由闊達に、早稲田大学の現在、そして未来について、思う存分に、発信してもらいたい。

 さらに、どんな学生を受け入れたいかという強いメッセージを発信してほしい。学生受入方針は、組織でオーソライズされたものではなくても、鎌田さん個人のこれまでの早稲田での教員経験をもとに、語ってくれればいい。こちらは御預けにする必要はないだろう。

(次回は京都大学松本紘総長を予定)

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