村山斉先生「宇宙の根源的問題に挑む-最新宇宙論」

宇宙の終わりの鍵を握るエネルギー 東京大学国際高等研究所 数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長 特任教授 村山斉先生

5回にわたって東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長の村山斉特任教授にご登場いただくこのコーナー。前回は、正体不明の暗黒物質が原子の5倍も存在している、それでも宇宙全体の質量には全然足りていない。残り約7割はいったい何なのだろう、というお話でした。今回は、残り7割についてお話しいただきます。

原子と暗黒物質をすべて足し合わせても宇宙の全質量のおよそ27% にしかなりません。残りの73%は何なのかというと「暗黒エネルギー」という名称は付いていますが、その正体は暗黒物質よりもよく分かっていません。

「エネルギー」が「全質量の73% 」になるのは不思議に思われるかもしれませんが、アインシュタインが発見した有名な方程式E=mc2から、エネルギー(E)と質量(m)は同様に扱えることが分かっています。(cは光速度)

この正体不明のエネルギーは、存在だけでも驚きなのですが、私たちの常識を覆す現象を担っています。

宇宙はビッグバンと呼ばれる大爆発から始まったことはよく知られています。誕生以来宇宙は膨張を続けていますが、何百億年先に来るであろう宇宙の膨張の終わりはどうなっているでしょうか?
これまでは、1)膨張が減速していずれ止り、そこから収縮に転じる。2)膨張は段々遅くなるが、永遠に続く。このどちらかが起こるだろうと考えられていました。いずれにせよ、宇宙の膨張速度は宇宙空間のエネルギーによって決まるため、宇宙が広がればそれだけエネルギーも薄くなり、膨張速度は徐々に遅くなるはずだというのが、これまでの宇宙物理学の常識でした。

ところが、宇宙の膨張は、減速するどころか加速していることが近年の観測で分かったのです。そして、膨張を加速させるエネルギーが暗黒エネルギーだと考えられているのです。このエネルギーは空間が広がっても薄まりません。つまり、全体としては増えているのです。

宇宙全体のエネルギーの増え方があまりに激しいと、遠い将来、宇宙の膨張速度が無限大に達して「ビッグリップ」が起きると考えられます。「リップ」とは「引き裂く」という意味で、すべてのものが引き裂かれます。銀河や星がバラバラにされて分子や原子になり、さらに分子や原子も引き裂かれるようになります。バラバラになった素粒子が無限大の空間を薄く満たしているだけの荒涼とした宇宙が「宇宙の終わり」なのかもしれません。

ただ、本当にこのような終わり方を宇宙が迎えるのかどうかは、今のところ定かではありません。暗黒エネルギーの増え方によっては、全く違う終わりを迎える可能性もあるからです。そこで、暗黒エネルギーの増え方を調べるための観測計画が進んでいます。

さて、そもそも暗黒エネルギーとは何なのか? 一つの仮説として真空が持つエネルギーではないかと考えられています。「真空なのにどうしてエネルギーがあるんだ?」と思った人もいるかもしれませんが、実は真空というのは「まったくの空っぽ」ではなく「最低エネルギー状態」というのが正しい説明です。真空エネルギー=暗黒エネルギーと考えると、宇宙空間が膨張するにつれエネルギーが増えることにも一定の説明がつきそうです。

宇宙の膨張は加速していたり、真空にエネルギーがあったり、まだまだ物理学には謎が尽きないようです。

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東京大学国際高等研究所
数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長 特任教授

村山 斉 先生

理学博士。IPMU初代機構長、特任教授。カルフォルニア大学バークレイ校MacAdams冠教授。日本を代表する素粒子理論の若きリーダーの一人。IPMUは「宇宙はどうやって始まったのか?」、「何で出来ているのだろう?」、「どうして私たちは宇宙に存在しているのか?」といった根源的な問題に対して世界第一線の数学者・物理学者・天文学者が集まりさまざまな手法で宇宙の謎に迫る新しいタイプの研究組織。

※この記事は、大学ジャーナル2011年7月号(Vol.94)に掲載された当時のものです。