阿部先生の地球と歩もう 総合地球環境学研究所 阿部健一先生

地球環境問題の鍵をにぎる人文系と自然系の双方的アプローチ

今号からは、総合地球環境学研究所、通称"地球研"の阿部健一先生の連載がはじまります。
環境問題やその解決のための地域研究、フィールドワーク、国際社会でのコミュニケーションの極意にいたるまで、縦横無尽にいろいろなお話をお届けいただく予定です。

総合地球環境学研究所

写真:風景ととけ込むような落ち着いた雰囲気の地球研

風景ととけ込むような落ち着いた雰囲気の地球研

まずは私のいる"地球研"について少しご紹介したいと思います。2001年に京都大学構内で研究活動をスタートさせた地球研は、現在では京都市北区に拠点をおいて、環境問題の本質を解明して人間と自然との適切なあり方を考えることを使命に、さまざまな研究活動を展開しています。 こうした研究は世界各国で進められていますが、環境問題を"地域"における問題としてとらえて、人間の生き方や文化の問題と関連した枠組みの中で調査・研究等を行っていく必要があると考えているところが、地球研の特徴だといえます。

地球環境学といっても問題は一つではなく、各地域によってさまざま。そして、ある地域の問題が、他の地域、ひいては全世界にまで影響するのが現状です。グローバリゼーションといいますが、ある意味では環境問題によって「地球は一つしかない」ということを私たちは認識させられたといえます。

一方、一つ一つの地域の問題を見つめることも大切です。地球環境問題は生きている人間の暮らしと切り離せないものですし、地球上全ての人でシェアして引き受けなければならないこうした問題の原因を突きつめていくと、結局はそれぞれの地域の問題に行きあたるからです。地球環境学の中で、地域研究は大きな比重を占めることになります。

人文系と自然系を統合した人間科学としての地球環境学

人間の生活・暮らしや文化の問題を考える従来の地域研究は、人文科学の分野だとされてきました。しかし地球環境問題では、国境も関係なく、普遍的に地球全体の動植物を見るような、自然科学系の研究視点や方法を組み合わせることが重要になります。人文系と自然系の双方的アプローチをとることによってはじめて、問題を総合的に理解することができ、新たな解決策が発見できるのです。

また、地球時代といわれる現代は、いたるところで大小さまざまな紛争が起きています。簡単に答えが見つかる問題ではありませんが、地域研究では紛争解決の第一歩として、お互いを理解し合うために、まず"違いを知ること"を課題にしています。

紛争問題と地球環境問題は一見するとまったく異なる課題だと思われるでしょう。実際、紛争の現場では環境どころではありません。生きるか死ぬかの場面で、「環境にやさしい」などとはいっていられないでしょう。しかし二つの問題は、根底的なところで共通しているところがあります。一言でいえば、地域のことをよく理解したうえで、世界とのかかわりを考えなければならない、という点です。地域の事情は違うけれども、一つの地球にいま共存していることを常に念頭においておかなければならない、ということです。

むろん個々の問題を切り取っては、全体の解決にはなりません。また個々の課題は複雑にからみあっています。たとえば、紛争問題にも環境問題にも、貧困という問題が深く関わりあっています。ある地域の貧困を克服することは、地球規模の紛争問題と環境問題を解決することに通じるでしょう。だからこそ世界の人が、ある地域の固有の問題に関心をよせる必要があるのです。地球環境問題が南北問題だとしばしば言われるのも、まさにこの点です。地球環境問題という課題は共有しています。しかし先進国と途上国では、それぞれ固有の問題があり、それぞれの解決の道筋があるということを理解していなければなりません。一つの地球環境問題があるのではないのです。

環境問題は複雑で、まだまだ考えなければいけないことがありますね。次号からは私の行っている活動を中心に具体的な話をしていきたいと思います。

Profile

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総合地球環境学研究所

阿部 健一 先生

1989年京都大学大学院農学研究科熱帯農学専攻博士課程中退後、京都大学東南アジア研究センター助手、国立民族学博物館助教授、京都大学地域研究統合情報センター准教授などを経て現職。
専門は環境人類学、相関地域研究。
主な研究テーマは、東南アジア熱帯林のポリティカル・エコロジー、水と文化多様性など。

※この記事は、大学ジャーナル2009年4月号(Vol.80)に掲載された当時のものです。