ススメ理系 物理がおもしろくなる物理の話 財団法人平成基礎科学財団理事長 小柴昌俊

太陽ニュートリノの謎に迫る!

予想以上の観測精度を発揮したカミオカンデはさらなる改良を経て、超新星爆発によって飛来したニュートリノの観測に成功。「ニュートリノ天体物理学」の誕生に貢献しました。カミオカンデの改良は太陽から飛来するニュートリノを観測するためでもあったのです。というのも当時、物理学者の間で「太陽ニュートリノの謎」は一大問題だったからです。今回はその「太陽ニュートリノの謎」についてお話したいと思います。

写真:チュレンコフ光のデータ

ニュートリノは宇宙を飛び回っています。いまこの文章を読んでいるあなたの身体にも、常時大量に降り注いでいます。しかし、他の物質とほとんど反応しないため、人間の身体などは簡単にすり抜けてしまい、日常生活においてニュートリノに気がつくことはありません。

私たちの身近なところでもっとも大量にニュートリノを放出しているのは太陽です。カミオカンデによる正確な観測がなされる以前には、地球上のニュートリノはほとんどが太陽からのニュートリノと仮定して観測されていました。

ところが、その仮定された分を含めても太陽ニュートリノは理論値と比べてはるかに少ない数しか観測されないのです。アメリカの研究者レイモンド・デイビス(RaymondDavis Jr./小柴先生と同時にノーベル物理学賞を受賞)により、理論値のおよそ3分の1という実験結果が出されていました。理論に比べてあまりにも少なすぎるため、多くの物理学者は「太陽ニュートリノの謎」と呼んで頭を悩ませていました。

この謎を解くために、さまざまな仮説が提唱されていました。主なものとしては「それまでの太陽についての理論が間違っている」というものや「ニュートリノは地球に届くまでに振動によってニュートリノが観測されない別の種類のニュートリノに変わる」というものでした。後者の仮説は挑戦的で、ニュートリノが振動するためには静止質量を持つことが必要なのですが、ニュートリノが静止質量を持つかどうかは当時大きな問題でした。大統一理論のあるタイプのものは、ニュートリノの静止質量をゼロだと仮定していたからです。

カミオカンデによる高精度の観測の結果、やはり太陽ニュートリノは理論値より少ないことがわかりました。エネルギー分布はおおよそ理論通りなのに、数だけが少なくなっていたのです。さらに大気中でできるニュートリノの観測結果から、高い確率でニュートリノが振動していることもつきとめました。

その後、カミオカンデの実験を受け継いだスーパーカミオカンデ(電子型とミュー型の2種類のニュートリ第1回、高校生のためのアカデミック・カフェが開催ノを観測)による観測結果(理論値の45%)とカナダのサドベリーニュートリノ天文台(電子型のみ1種類のニュートリノを観測)の観測結果(理論値の34%)を比較することで、太陽から発せられるニュートリノはすべてが電子型のまま地球にやって来るわけではないことが明らかになりました。

※大統一理論:宇宙に存在する基本的な力(強い力、弱い力、電磁気力)を統一的に記述する理論のこと。さらに重力を含めた統一理論を「超大統一理論」と呼ぶ。

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財団法人 平成基礎科学財団
理事長

小柴 昌俊

1926年愛知県豊橋市生まれ。51年東京大学理学部物理学科、55年ロチェスター大学大学院修了後、東京大学助教授、教授、東京大学理学部附属素粒子物理国際センター長などを経て、2002年にはノーベル物理学賞を受賞。2003年(財)平成基礎科学財団を設立し、現在に至る。

『ようこそニュートリノ天体物理学へ』(海鳴社)、『物理屋になりたかったんだよ』(朝日新聞社朝日選書)、『やれば、できる。』(新潮社)など著書多数。

※この記事は、大学ジャーナル2009年11月号(Vol.84)に掲載された当時のものです。