ススメ理系 物理がおもしろくなる物理の話 財団法人平成基礎科学財団理事長 小柴昌俊

カミオカンデからさらなる展開へ カミオカンデの後継者たち

4月から小柴昌俊先生に連載いただいている「物理がおもしろくなる物理の話」も今回で最終回です。カミオカンデ以降の実験設備や実験プロジェクトをご紹介いただくとともに、高校生のみなさんへのメッセージをいただきました。

スーパーカミオカンデ

写真:満水間近のスーパーカミオカンデ

満水間近のスーパーカミオカンデ
写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

カミオカンデが超新星爆発のニュートリノを捉えたことで、日本のニュートリノ天体物理学は勢いを得ました。そして、私が実現できなかったカミオカンデを超える実験装置が作られたり、カミオカンデの跡地にさらに新しい実験装置が作られたりするなど、新たな展開を迎えています。

カミオカンデが稼働を始めた翌年の1984年、アメリカの学会で「太陽ニュートリノ天文台」の構想を発表しました。カミオカンデを改良すれば太陽からのニュートリノも観測できるとの着想をさらに膨らませ、カミオカンデよりも大きい実験装置を作ろうという構想です。残念ながら当時、この話に乗ってくれる研究機関はありませんでした。しかし、後継者の戸塚洋二教授らの尽力によって、95年に実現しました(稼働は96年)。

このスーパーカミオカンデは、50cm径光電子増倍管が1万1200本取り付けられていて、カミオカンデの10倍以上の水(5万t)を使って観測を行います。こうして高い精度の観測が可能になったことで、太陽ニュートリノの理解は飛躍的に発展しました。また、陽子崩壊観測もひき続き行っています。

カムランド(KamLAND)とK2K

カミオカンデの跡地には、東北大学大学院理学研究科付属ニュートリノ科学研究センターが設置した反ニュートリノ検出器があります。カミオカンデやスーパーカミオカンデとは異なる検出方法で、より低いエネルギーのニュートリノを検出することができます。

カムランドは、反ニュートリノを検出することを目的としています。反ニュートリノを観測することで、地球内部で生じている核分裂の詳細を調べ、地球の熱生成モデルの研究に挑戦しているのです。カミオカンデとの違いは、反 ニュートリノの観測に特化していて螢光を検出する能力が高いこと、水ではなく液体シンチレータと呼ばれる粘性のある物質を用いていることなどがあります。

また、加速器からニュートリノをスーパーカミオカンデ目がけて打ち込み、ニュートリノ振動の理解を深めようという実験も行われています。K2K(長基線ニュートリノ振動実験)では、つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の陽子加速器を用いて人工的にミューニュートリノビームを発生させ、250㎞ 離れたスーパーカミオカンデに打ち込みます。ニュートリノビームの発生時の強度やエネルギー分布とスーパーカミオカンデの観測を比較して、ニュートリノ振動の証拠を見つけようという実験です。K2KとはK to Kを表し「KEKからKamioka」という意味です。

T2Kは、茨城県那珂郡東海村のJ-PARC加速器で発射したニュートリノを295㎞離れたスーパーカミオカンデで捉える実験です。ニュートリノ振動現象の精密な測定を目的として、2009年4月に実験が開始されました。「TokaimuraからKamioka」という意味です。

※反電子ニュートリノ。ニュートリノの反粒子

やれば、できる。

今回連載を終えるにあたって、みなさんに言いたいのは、本気で物事に取り組めば、何でもできるということとです。人生にはさまざまな困難がつきものですが、自分が選んだ道であれば、それほど苦しいと思うことなく乗り越えることができます。また一生懸命取り組んだ結果が失敗であっても、そこでがんばったことは後々生きてくるもの。そのためには自分に向いていることを早く見つけることも必要かもしれません。どんなことでも後ろ向きに考えずに、ベストを尽くしているんだから大丈夫だと、常に前向きに考えればいいのです。

Profile

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財団法人 平成基礎科学財団
理事長

小柴 昌俊

1926年愛知県豊橋市生まれ。51年東京大学理学部物理学科、55年ロチェスター大学大学院修了後、東京大学助教授、教授、東京大学理学部附属素粒子物理国際センター長などを経て、2002年にはノーベル物理学賞を受賞。2003年(財)平成基礎科学財団を設立し、現在に至る。

『ようこそニュートリノ天体物理学へ』(海鳴社)、『物理屋になりたかったんだよ』(朝日新聞社朝日選書)、『やれば、できる。』(新潮社)など著書多数。

※この記事は、大学ジャーナル2009年12月号(Vol.85)に掲載された当時のものです。