トップが語る、「大学」と高校生へのメッセージ

国際教養大学学長 中嶋嶺雄先生「全球時代の大学を目指そう」

中嶋嶺雄先生の写真

豊かな教養に、英語など外国語による発信力、国際コミュニケーション力を身につけることを加えた「国際教養」教育を理念に掲げ、2004年に開学した国際教養大学(AIU Akita International University:秋田県秋田市雄和)。近年、大学のグローバル化、グローバル人材育成についてこれまでにない議論が交わされる中、すべての授業が英語、1年の海外留学が必須などの取組によって、その存在感は一層高まっています。また、毎年ほぼ100%の就職率を可能にするキャリア教育、今話題の秋入学とギャップイヤー制、それに「特別科目等履修生制度」(暫定入学の制度)などの斬新な取組も、日本の大学の今後のあり方に多くの示唆を与えています。国際教養大学に中嶋嶺雄先生をお尋ねし、「全球化」(グローバル化を中国語ではこういう)時代の日本の大学についてお聞きしました。

※AIUはその「国際教養」教育について、外国語コミュニケーション能力の熟達、様々な学問分野にまたがる広範な基礎知識等の統合、知的自律性と意思決定能力、自己の文化的アイデンティティへの認識と異文化への理解、グローバリゼーションに対する理解という5つの教育目標を掲げ、それを人文学的・芸術的視点、社会科学的視点、経験的方法、量的論証、批判的思考の5つの探求方法で達成することとしている。

秋入学とギャップイヤー制

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「福岡の集団農場でフィリピンからの外国人労働者と共に2カ月間働いてみると、彼らがじつによく働くことに驚かされた。そしてそれが貧困ゆえであることを知らされた時には、大きなショックを受けるとともに、これまで関心を抱いていた外国人労働者の受け入れについて、一段と深い理解を得ることができた」。2009年にギャップイヤー制度を使って入学したある女子学生は、その間の活動についてこのような主旨の報告をしてくれました。

ギャップイヤー制とは、主にイギリスの大学で行われているもので、高校卒業後に、大学への入学を一定期間留保し、その間(ギャップイヤー)に、自分の意志で何らかの活動に取り組むもので、大学入学前にその目的意識を一層明確にするのに有効とされています。昨年度、東京大学が、秋入学と関連して、2016年度からの導入を発表した(東京大学はギャップタームという表現を使う)ことで一躍世間の注目が集まりましたが、当初からグローバルな大学を目指して設立された本学では、秋入学(開学時から実施) を前提に2008年からギャップイヤーを実施しています。

活動のための期間は4月から8月まで。内容は国内外でのボランティア活動、フィールドワーク、部活動での後輩育成などです。この制度を使う学生は、計画書を作成、合格後にそれを大学の担当者の前でまず発表します。そして途中で一度、経過や進捗状況を報告し、入学後2週間以内に最終報告書を提出しなければなりません。当初は、このギャップイヤー活動を前提とした入試を3月に実施していましたが、2011年からは「ギャップイヤー入試」と名づけ、11月に行っています。従来の期間に高校卒業までの半年間を加えることで、計画期間を含めると文字通り年間(イヤー)で活動に取り組めるようにしたのです。この制度を通じて入学した学生には、ギャップイヤー活動を「インターンシップ」として認め、3単位を付与することができます。

AIUが試みてきたこと

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現在、日本の大学がグローバル化のためにしなければならないことは秋入学とギャップイヤー制以外にもたくさんあります。しかもその上、少子化に備えた改革や、グローバル化等によって露わになった制度疲労の修復も急務です。

これらを見据えて本学は、従来の大学にはできないような挑戦を開学以来数多く行ってきました。それは手短に、以下の6つにまとめることができます。授業はすべて英語で行うこと。1年間の海外留学を義務とすること。キャンパスを異文化空間にすること。少人数教育を行い、施設も学生中心に整えること※1(図書館[写真右]とLDIC〈言語異文化学習センター〉)。それに徹底した就職支援と、ギャップイヤー入試をはじめとしたユニークな入試・入学制度です。

なかでも「特別科目等履修制度」の暫定入学の制度は、これまでの日本の大学の常識を根本的に覆すもので、1回だけの1点刻みの入試判定への問題提起でもあります。具体的には3回実施する一般選抜試験のそれぞれで、ボーダーラインをわずかに下回る受験生の中から、英語の成績が合格者平均を大きく上回るなどの点を考慮して※2、合格発表時に別枠で入学者を掲示します。人数は1回の入試について数名程度。入学後は正規入学者とほとんど同じ扱いで学生生活を送ります※3。1年間で一定の基準の成績を満たさなければ退学となりますが、満たせば2年次へ正規編入できます。

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もちろん設立してまだわずか8年ですから、ここで成果について語るのはまだ早いかもしれませんが、この「特別科目等履修生制度」をはじめ、挑戦の多くは当初の予想をはるかに上回って機能しています。近年は、就職率の高さでマスコミを賑わしていますが、これは目的ではなくあくまでも結果です。またこれと関連して、4年での卒業率が約半数であることも指摘されますが、本学はセメスター制をとっているため、4年半で卒業する割合は60~70%、5年では約90%です。しかもそのほとんど全員が就職もしくは進学していきますから、1年の海外留学を考えるとまったく問題にはならないことだと考えています。むしろこの数字はハーバード大学とほぼ同じですから、まさにグローバル・スタンダードの証しともいえますし、退学率についても3%以下と全国平均よりも低いのが現状です。

※1 図書館は365日24時間開いている
※2 他には合計点が1点差であるとか、文系であるにもかかわらずセンター試験の理系科目が満点である、などが例示されている。
※3【学生に聞く参照】

グローバル化と日本の大学

ところで今日、グローバル化も含めて日本の大学改革がこれほどまでに話題になるのは、1990年代の初頭からの大学改革が、時代に逆行してきたからだと私は考えています。世界のグローバル化が始まったのはまさにその同じ時期でしたから※4、そこでまず求められたのは、一口で言えば「国際教養」教育だったのです。にもかかわらず、この間、日本の大学では、旧態然とした外国語教育が続けられ、教養教育についてはそれを消滅もしくは弱体化させるような改変が行われてきました※5。これを私は、大学における失われた20年、また、本来、知の最先端を追求すべき大学がもっとも時代に取り残されてしまったという意味で、《知の鎖国》状態だと呼んでいます。

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現在、各大学では、この失われた20年を取り戻そうと懸命の努力を続けていますが、その際、本学のような存在が一つのヒントを提供できればと私は考えています【補足】。リベラルアーツ、「国際教養」教育は大規模な総合大学でなくても、私どものように地方の小規模の公立大学でも十分に可能だからです。確かに今、日本の大学は、韓国や中国、香港、台湾、シンガポールなどのアジアの近隣の大学から激しい追い上げを受け、その脅威が政策担当者や大学のトップに強い危機感を与えています。しかし私が見るところ、それらの多くは、自国の産業や社会の発展にすぐにでもつながるようなスキルやノウハウの習得とともに、人の生き方や世界との正しい向き合い方を様々な学問を通じて学んでいく教養教育を重視するところにまでは至っていません。

幸いわが国には、やや後退したとはいえ、教養教育の分厚い蓄積があります。これまでグローバル化への対応では遅れを取っていたものの、そこを上手に克服できれば、世界に通用する「国際教養」教育が、多くの大学で花開くに違いありません。それは、世界の様々な地域で、様々な課題解決やビジネスに、これまで以上に若者が活躍できるチャンスを広げることにつながります。

グローバル化は後戻りしません。後戻りできないのがグローバル化の現実です。それを真正面から捉えた改革だけが本当の大学改革だといえるものですし、グローバル人材を目指す受験生には、そのような大学をこそ選んでほしいと思います。

※4 1991年のソ連崩壊と、その直後から始まったIT革命によって引き起こされたといわれ、それ以前のインターナショナリゼーションとは一線を画すとされる。
※5 具体的には、1991年の大学設置基準の大綱化と、それに追い打ちをかけた1992~3年の大学院重点化を指す。大綱化によって、それまで多くの大学に置かれていた教養教育を担う教養部がそのほとんどで廃止された。大学院重点化では、有力国立大学を中心に教員の所属を大学院に移したため、学部教育自体の空洞化を招いたといわれている。

【補足】中嶋先生はこの問題について、同時に以下のようにも述べられているので補足しておく。「この問題を大学だけで解決するのは難しいことです。やはり幼稚園・小学校に始まり大学に至る一連の流れも視野に入れる必要がある。例えば、昨春から小学校5、6年生で実質的に必修となった英語教育を例にとると、それを今後、中学校の英語にどうつなげてくのか、さらには高等学校の英語にどう結び付けていくのかはきわめて重要です。もし、高校卒業までに、生徒の多くが十分な英語力を身につけることができれば、後はコミュニケーション力だけの問題ですから、大学受験で英語をことさら意識する必要もなくなるわけです。もっとも、これまで日本の教育は、小学校は小学校だけ、高校は高校だけというように、同じ生徒を相手に、そのための教育を各段階で分けて考えることに終始してきました。そのため、高等学校と大学との接点ともいうべき大学入試も大きな問題を抱えたままです。高校で学ぶことはすべて大学で学ぶことに直結しているにもかかわらず、大学側が入試でそのことを正しく評価してこなかった結果、その多くを受験生の目から逸らせることになってしまったからです。現在、このような歪みを是正すべく、中学と高校の間では公立の中高一貫校の拡大が、小学校と中学校の間では小中連携が、高等学校と大学との接続では、高大連携が推進されていることには期待が持てるといえましょう」

学生の声 国際教養大学で学ぶ

渡辺くんの写真

国際教養大学 グローバル・スタディーズ課程3年
渡辺 真亜知くん
(横浜隼人高等学校出身)

ジャーナリストになりたいという漠然とした夢を持っていて、これからは英語も必要だと考えていたのと、全く新しいタイプの大学ということでこの大学に興味を持った。公立大学ということで、学費が安いのも魅力。海外留学も私学よりずっと安い。だから他の系統の学部はいくつか受けたが、国際教養系はここだけ。直接のきっかけは、ここの大学の教授がラジオで司会をしていたのを聞いたこと。高2の夏に単身夜行バスを使って訪れたオープンキャンパスの場で模擬授業を受けたり、学生に直接質問するうちにこの大学を気に入り、受験することを決めた。

専攻はEAPを除いて30単位を取得してから決めることになっている。ただ、ここで学生の考えや多様な価値観の人と接するうちに、興味の対象も変わってきていて、今はグローバル・ビジネス課程にある経済、経営の講義も取っている。いずれにしろ今は、英語漬けになってスキルアップをはかり、同時に知識も貯め込んでおく時期だと考えている。 9月からはチェコのマサリック大学へ1年留学する。留学先の授業は英語で開講される。第2外国語はスペイン語で※3、現在は留学先での日常生活に備えてチェコ語も勉強している。

1年次のこまち寮※4ではアメリカ人とルームシェアをした。とにかく部屋の掃除一つについても、きちんと言うべきことは言わないと伝わらない。とてもいい経験になった。

高校時代、英語は得意だったがEAPでは、英語を英語で勉強する。高校までの受動的な英語勉強に慣れきっていたため、英語での発信の面で苦労が絶えなかった。ちなみに入学時のTOEFL ITPは513点で、最後に受けたのが580点。留学申請は550点からである。550点に達しない限り卒業要件の一つである留学へは行けない。

後輩へ、大学選びはオープンキャンパスの機会を利用して、生の大学の雰囲気を体感しておいた方が良い。メディアを通じて得られるものには限度がある。大学選びはできるだけ自分の足を運び、自分の五感を通じて人生の中の4年間もしくはそれ以上を過ごす価値のある場所かどうかを判断することをお勧めする。


中田くんの写真

国際教養大学 グローバル・ビジネス課程4年
中田 寛人くん
(宮城県立佐沼高等学校出身)
富士フィルム株式会社に内定

暫定入学とは

いわゆる暫定入学、特別科目等履修生から2年へ編入した。センターで失敗し、AIUの一般入試A、B、Cのすべての日程で不合格になった。高校時代は英語が一番の苦手で、センターがダメだったから諦めていたが、英語だけのC日程で引っ掛かった。特別科目等履修生と正規生との違いは、学籍番号が少し違うのと、奨学金がもらえないことぐらい。ただ、1年後に退学の恐れがあるから、高校時代の何倍も勉強した。クラスの中でも一番勉強したと思う。

編入するためには、EAP※1修了(TOEFL500点以上)とGPA(Grade Point Average)※2 2.5以上、それにEAPⅢを含む21単位以上取得することが必要。高校時代、リーディングはある程度できたが、全く話せない。しかし入学時497点だったTOEFLが、1年後、正規学生として認められた時点では593点になっていた。高校で1年間留学していた友だちよりも高い点数も取れた。ちなみに同じ年に特別科目等履修生として1年間過ごした7名も全員正規編入でき、ここまで脱落者はいない。その中の1人は、一定の基準をクリアした者だけが行ける早期留学(2年の9月出発、標準留学は2年の1月出発)を果たしている。

なぜAIUへ

ここは宮城県よりも北にあって、高校の進路の先生も知らなかったような大学だ。もともと人がしないことをしたい性格で、英語が苦手だったから授業が英語だけというのも魅力だった。克服すれば自分の世界が広がる、頑張り次第で自分がいくらでも成長できると思った。高校時代に、野球部で万年補欠から猛練習でレギュラーになり、何かを克服した後の達成感にも味をしめていた。それと、受験勉強をしていて、入試のための勉強をしている人は多いけれど入学後のことを考えている人が少ないことにも納得がいかなかった。ここは、入学して半年間はEAPで、その後は基盤教育、そして留学と、やることが明確に示されていて勉強せざるを得ない環境だから、4年でどれだけ成長できるかに意識を集中できると思った。また負けず嫌いで、模試でA判定を取っていたのに落ちたから、入って見返したいという思いもあった。もちろん落ちたことは謙虚に受けとめたから、この大学で頑張ろうという気にもなれた。

東京の私立のブランド大学にも受かったが、4年後の自分の姿がなんとなく見えてしまって止めた。公立で授業料も安く、親からもバイトをしなくていいと言われたから、退学のリスクはあったものの東京へ行くよりはいいとも思った。

留学と就職、将来の夢

留学は第1希望のドイツへ(留学先は第1から第6希望まで出せる)。ドイツを選んだきっかけは1年の時。秋田県庁と学内の教育研究組織である地域環境研究センターとが連携して、秋田県の限界集落(60歳以上が半分以上)を実態調査した際に、その学生助手として参加した。秋田は日本で一番過疎化、高齢化が進んでいて、自分の育った地域ともオーバーラップする。この大学には東北地方以外から半分以上の学生が来ているから、日本がいかに大都市中心の文化になっているかもよくわかったし、その中でなぜ東北だけが過疎を背負っているのかを考えさせられた。そこで将来は、使われていない農地などを有効活用するビジネスを起こしたいと考えるようになった。よって将来、日本の地方を変革し運営していく能力を身につけたいと考え、留学先は一流のビジネススクールへの留学を決めた。留学先のマンハイム大学はドイツで一番のビジネススクールであり、また世界の上位1%に入るような名門大学であったため、留学先として決意した。

またドイツは、ベルリンが300万人、ハンブルグが160万人、ミュンヘンが100万人ちょっと、そしてヨーロッパの一大金融都市と呼ばれるフランクフルトが仙台の半分の50万人と、連邦制によって国土が地方分散型になっていて、地方自体に活力があると知り、そこに住む人々の意識も知りたいと思った。一流のビジネススクールへの留学と先進的な地方運営を実現しているドイツでの生活という点からドイツのマンハイム大学へ留学した。ちなみに第2外国語は中国語で、他の勉強が忙しくてドイツ語は日常会話程度しかできない。

就職は当初、日本の農業を変えたいと総合商社を考えていた。しかし面接を受けている間に自分が商社に対して盲目的とも言えるくらいに夢中になっていることに気付いた。自分の視野を広げるためにも、まったく興味のないメーカーの面接を受けていくうちに様々な可能性を感じた。そして自分の原点は、地域や農業を何とかしたいということだったから、自分でビジネスを起こして展開できる能力を身につけることが先だ、そう考えて選んだのが富士フィルム。ここは本業を捨てて、様々な新事業を行っていて、今では化粧品にも力を入れるなど、常に新しい分野、素材に挑戦している。自分たちの可能性を追求している点と持っている技術を最大限に使おうとしている点に、他の大企業に見られないチャレンジ精神と大企業病に陥っていない謙虚さを感じた。英語が苦手なのにこの大学へ入った自分ともどこか通ずる。こういう会社の最前線で働けば、ビジネスマンとしてのスキルを最大限に高めることができ、かつ将来、地元へ戻った時にそれを何らかの形で還元できるのではないかと思っている。

※1 EAP(English for Academic Purposes):英語集中プログラム 4年間を英語で学ぶための基礎、学術英語を身につける。入学時のテストで初級、中級、上級にクラス分けし、週20時間で4ヶ月集中して行う。聴く、話す、読む、書くの4技能を教員とのディスカッションで身につけていく。言語異文化学習センター(LDIC)での自習も義務付けられている。LDICは他に第2外国語の単位取得を補うことにも活用される。
※2 評定平均値。AIUでは世界標準の12段階で評価。進級には各セメスターで2.0以上、留学申請には2.5以上が求められる。交換留学のためには、「単位互換システム」、シラバスの「国際コード化」がある。
※3 AIUでは、三言語主義もしくは複言語主義(プルリリンガリズム)を採っていて、第2外国語も修得できる。第一外国語は英語で母語を入れて三言語になる。
※4 敷地内にある寮で、新入生は全員ここで1年間を過ごす。共同生活が基本。学内にはほかにグローバルヴィレッジとユニバーシティヴィレッジと呼ばれる学生宿舎がある。

Profile

国際教養大学 学長

中嶋 嶺雄先生

1936年長野県松本市生まれ。60年東京外国語大学中国科卒業。東京大学大学院社会学研究科修了。社会学博士。国際社会学者。東京外国語大学学長、国立大学協会副会長、アジア太平洋大学交流機構(UMAP)国際事務総長、財団法人大学セミナー・ハウス理事長、文部科学省中央教育審議会委員(大学院部会長・外国語専門部会主査)、内閣教育再生会議有識者委員、オーストラリア国立大学、パリ政治学院、カリフォルニア大学サンディエゴ校大学院の客員教授などを歴任。長野県松本深志高等学校同窓会長。

※この記事は、大学ジャーナル2012年7月号(Vol.100)に掲載された当時のものです。