トップが語る、「大学」と高校生へのメッセージ

関西大学学長 楠見晴重先生「高度な機能を有する「ハブ大学」を目指せ」

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関西最初の法律学校として設立され、来年創立125年を迎える関西大学。

≪正義を権力より護れ≫という建学の理念の下、大学の学問を社会で活かすことを校是に掲げ、その歴史を刻んできました。

昨秋、第40代学長に就任した楠見晴重学長は、『ハブ大学化構想』を掲げ、国際化時代に対応する大規模総合大学の舵取りに当たられています。

学生一人ひとりの、そして大学そのものの国際化こそ、未来を切り開く鍵を握ると語られる楠見学長に、21世紀の大学について、関西大学の目指すもの、高校生へのメッセージをお聞きしました。

※『教育、研究、社会貢献などあらゆる分野で日本の各地域及びアジア・太平洋地域をはじめとした世界と交流する拠点』。 ハブ(hub)は車輪の中心を意味する言葉で、交通網などのネットワークにおける要にも譬えられる。

 

21世紀の大学と輩出すべき人材像

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グローバル化が急速に進む中、日本の産業・経済を支える空港や港湾のハブ化がよく問題にされます。ハブとは、国内各地とのネットワークの要であると同時に、24時間世界に開かれたネットワークの要衝、拠点を意味します。ハブがなければ世界との接点が弱まり、その潮流に取り残されかねません。近年は、一極集中という言葉があまり肯定的には捉えられていませんが、グローバル化した競争社会の中では特定の都市や設備へのある程度の集中、集積は避けられません。逆にそうしなければ、世界に伍していくことはできない、ハブにはまさにそのような機能が託されていると私は考えています。

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翻って大学とは、教育、研究の拠点であり、近年は社会貢献を果たす機関としての役割にも期待が高まっています。本学は前身である関西法律学校以来、≪正義を権力より護れ≫という心意気を抱いた学生を社会に輩出してきました。また第11代学長の山岡順太郎が≪学の実化(じつげ)≫なるスローガンをうち立てましたが、これは「学理と実際との調和」「国際的精神の涵養」「外国語学習の必要」「体育の奨励」からなる教育理念で、後に学是として定着しました。そして特にこの20年間においては、国際化に対応しながら、大学で学んだ成果を社会に生かせる人材の育成に努めてきました。

国際化社会を迎えた今日、正義とはもはや国内だけで通用するものを意味しません。それを守るためには国際舞台へ飛び出していくことも必要でしょう。また社会とはイコール国際社会であり、国際的精神の涵養と外国語の習得も避けては通れません。大学とはまさに、国際正義のために学んだことを国際社会の中で生かせる人材を輩出する拠点なのです。

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このような視点に立つ時、これからの総合大学は、教育、研究を中心に様々な機能を一層充実させ、学生や社会のあらゆるニーズに対応できる知の一大集積地を目指さなければなりません。国際化のためには多くの留学生を受け入れるとともに、海外へ開かれた教育プログラムを用意することも必要です。海外の大学、企業、国家機関とも連携し、強固なネットワークを結ぶことも必要でしょう。

≪人や情報が大学を経由して行き交い、大学が知識や文化のセンターになる≫、それがまさに大学のハブ化なのです。その際、規模と多様性の面から、一大学、一地域で解決できないような課題が生まれてくれば、京都や神戸も含めて関西全体を一つのハブと考え、そこへ向けて各々の大学の持つ資源を結集することも必要だと思います。

大学で学んでほしいこと、身につけてほしいこと

先日、本学大学院工学研究科機械工学専攻を修了されたパナソニックの大坪文雄社長と対談する機会がありました。その中で深く考えさせられたのは、パナソニック全社の約38万人の従業員のうち、日本人従業員はわずか約8万人に過ぎないということでした。楽天やユニクロを展開するファーストリテイリングも社内の公用語を英語にするといって話題になりましたが、世界に目を向ける企業において、社員の国籍を問うことはもはや意味のない時代になってしまったようです。

現在の就職状況の厳しさは、かつての氷河期以上とまで言われていますが、今後はその厳しさに海外の学生との競争も加わってきます。現在、中国でも韓国でも、日本同様、大卒の就職は大変厳しく、特に中国では就職率は実質的には60~70%程度ではないかとまで言われています。日本企業が日本人を採用するとは限らなくなった現在、彼らも日本人学生の競争相手なのです。

一般的にいって、中国や韓国の学生が日本人学生と決定的に違うのは、英語に象徴される外国語の高い運用能力です。これには大学入学以前のカリキュラムや、大学入試にも問題があるでしょう。しかし外国語の運用能力の差はさておいても、海外への関心が薄れているように見えるのが気がかりです。実際、本学でも海外留学を希望する学生が、残念ながら近年は減っています。もちろん、景気の低迷が家計を圧迫していることもあるかもしれません。しかしグローバル化が急速に進む現在、それに逆行するような傾向は、とても心配です。

基礎力、学士力

こうした状況の中、本学では来年の春休みに1年次生を対象として、1クラス4~5人のTA(ティーチングアシスタント)にネイティブスピーカーを配した少人数制の英語授業を試行的に始めます※1。語学力を上げるとともにできるだけ多くの学生に海外に目を向けてもらうのが狙いです。

グローバル化という大きな枠組みの下で、現在各大学では、学部卒業時の力、いわゆる学士力というものを保証するために様々な工夫を凝らしており、この取組もそれを支える基礎力作りの一貫としての側面もあります。同様の試みとしては他に、新聞を使って文章理解力を高める講座や、文系学生を対象に数学的論理力をつける科目の開設などを計画しています。今全国の多くの大学では、こうした取組を強化しており、それは今後、みなさんの大学選びの一つの指標にもなってくると思います。本学では他に、私が所属する理工系学部では3つの学科がJABEE※2の認証を受けていますし、文学部では、卒論指導を1年次生から行ってその質を高める取組なども行っています※3

これらはみな、大学としてどのような人材を輩出するべきかということに基づいて、そのために必要な基礎力を固めようという極めて重要な取組であり、それは同時に今の学生や皆さんに求められているものでもあるのです。

※1 社会安全学部で試行的に実施する。
※2 日本技術者教育認定機構 学部、修士課程における技術者教育プログラムの審査、認定を行う。大学における技術者教育の質確保を目的に、専門学協会、日本技術士会、企業等によって設立、運営されている。ヨーロッパ、アメリカなどの基準を意識して、技術者教育の国際的な通用性を目指す。認められたプログラムを終了した学生は技術士1次試験が免除される。
※3 1年からの≪卒論ラボ≫の設置と卒論に必要な専門知識・理解の評価基準を示す≪卒論スケール≫の設定、そしてそれらを統合した≪卒論カード≫によって学びの環境リンクを形成する。

高校時代に学んできてほしいこと

大学での基礎力養成の第二段階として、新聞を題材とした文章理解力の講座を計画していることからおわかりのように、高校時代にはできるだけ、新聞や本を読んできてほしいと思います。

今の世の中は情報に溢れ、高校生の多くはそれについていけていないように見受けられます。情報は、ある程度取捨選択することが大切で、そのためには新聞や本を読み、自分なりの基準を持っておくことが必要です。特に読書は教養の幅を広げ、創造力も育みます。また評価の確立された小説などは、他者の人生を追体験することで自分の精神世界を広げるのにも役立ちます。

将来何をしたいのか、どんな人間になりたいのかについて日頃考えておくことも大事です。大学で学ぶ目的をしっかり持って、「やりたいこと、興味があることが学べるか」を大学選びの基準にしてほしいのです。「偏差値がこれぐらいだから行けるところはココとココ」というように大学・学部を選んでいたのでは、実り豊かな大学生活を送ることができるかどうか疑問です。

もう一つ加えれば、チャレンジ精神を養ってほしいということです。将来、私たちのような研究者としてであれ、企業人としてであれ、国際舞台で活躍するには、高校生のうちから失敗を恐れない精神を養っておくことです。高校生や大学生の間は、どんなに間違ったことを言ったり恥をかいても許されます。私も若い時、海外での学会へ出向き始めた頃には、発表が終わってから誰も質問に来ないという寂しさを味わいました。欧米人などはハッキリしていて、内容のある発表には終わった後で必ず質問に来るからです。その後は徐々に、質問する人も集まるようになり自信もそれなりについてきましたが、若いうちから失敗を恐れずそういった環境に飛び込んでいったことが、今の自分を支えてくれているのだと思います。

関西大学からのメッセージ

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本学は13学部9研究科に3つの専門職大学院を持つ総合大学です。10の学部を置く千里山キャンパスは、大阪の中心部から電車で20分、駅から大学正門までは5分という最高のロケーションで、しかもこれほどの大都市に近接しながら、緑豊かで静かな環境を保てているのが大きな特徴です。まさに日本のハブ大学を目指すにふさわしい立地と設備、陣容を備えていると思います。本年4月には、大阪と京都の中間点、高槻(社会安全学部)と、大阪南部の堺(人間健康学部)にも新しいキャンパスを開設しました。社会安全学部は、「安全」「安心」に関する様々な政策立案と実践ができる能力が身につくため、卒業後は安全マネジメントのスペシャリストとして幅広い分野・業種での活躍が期待されます。また、人間健康学部は、「こころ」「からだ」「くらし」を総合的にとらえ、健やかでおおらかに生きることを実現するための教育と研究を行います。

国際化を強く意識し、2年次での1年間の海外留学が必修となる外国語学部も2年目を迎え、現在1期生約150人がスタディーアプロードプログラムで海外の提携大学で学んでいます。商都大阪とともに歩み、アジア・太平洋地域を中心に世界のハブ大学を目指す関西大学の今後に大いに期待していただくとともに、自分のやりたいことを関西大学で見つけ、自分の頭で考え、自分の力で行動してください。そして将来、日本国内はもとより世界のさまざまな問題の解決に向けて、チャレンジできるような人材を目指してほしいと思います。

ご専門は?

工学の中でも地盤工学という分野です。最近はゲリラ豪雨などで山肌が爪でひっかいたように崩れ落ちた様子をニュースなどでよく目にすると思います。これまではその跡をコンクリートブロック等で覆って補修していましたが、これでは見た目も悪く、周囲の植生にもいい影響を与えません。

そこで私たちは企業と共同で樹木を伐採せずに景観・自然環境を保全し、しかも崩れ難くする工法を考えました。現在、各地で採用されており、阪神大震災の被害で至るところ山肌がむき出しになっていた六甲山では、グリーンベルトを作るプロジェクトにも採用されています。

日本は今後、極度の人口減社会を迎え、これまで人口増に合わせて作り続けてきた道路や橋、公共施設の維持管理が大きな問題となります。しかし現在は、この分野の人材が不足しています。今後、需要は増える一方だと思いますし、確かな技術やノウハウを持っていれば、新しいものを建設するのと変わらないぐらいのビジネスにもなりますから、多くの若者に目を向けてもらいたいと思います。もちろん、海外にも共通する問題はたくさんあります。

助手時代には、岩盤との関連で地下水の研究もしました。京都市の南部には上水道に地下水を使う自治体も多く、汲み上げる量について科学的なアドバイスをさせていただくなど、地下水環境問題に取り組んでいます。このことがきっかけで、NHK大阪放送局開局50周年記念の『アジアの古都』シリーズの京都編の製作に協力することになり、地下に琵琶湖と同じぐらいの水をたたえた京都の様子をCGで再現しました。番組は、京都で発達した茶道や京料理、伏見の酒造りなどがこの地下水の恩恵によるものであることを紹介し、平安京が1200年もの長きに亘って続いたことや、京都文化、ひいては日本の文化と地下水との深い結び付きに迫ったものです。

今また水は、急増する世界人口を支える水資源という側面から、全世界的な課題となっていて、この分野での専門家も求められています。

エピソードJ

Jはフランス語で青春を表すjeunesseの頭文字。お話をお聞きする先生方に、読者のみなさんの時代を振り返っていただいています。

新設ほどない西宮市立西宮東高校(兵庫県)の理数科に7期生として入学しました。中学時代から数学は得意でしたが、当時では珍しい65分授業と、数学、物理、化学の時間数が多いカリキュラムのおかげで理数力を鍛えられました。

自然の構造物に興味があり、大学では土木工学科に進学、当時一番人気の地質工学研究室へ配属され、恩師谷口敬一郎先生と出会いマスターまで進みました。就職も決まっていましたが、谷口先生の勧めで博士課程に進学し、それが今日までの研究者としての人生の決め手になりました。

Profile

関西大学 学長

楠見 晴重先生

1953年生まれ。関西大学工学部卒業。81年12月同大学大学院工学研究科博士課程後期課程中途退学後、82年1月より同大学工学部助手。助教授、教授を経て、2007年4月より同大学環境都市工学部教授。環境都市工学部長、大学院工学研究科長、関西大学理事などを経て、2009年10月より現職。学外でも、文部科学省大学設置・大学法人審議会委員、国土交通省近畿地方整備局道路防災ドクター、大阪市環境影響評価委員などを多数務める。専門は地盤工学。西宮市立西宮東高等学校出身。

※この記事は、大学ジャーナル2010年11月号(Vol.90)に掲載された当時のものです。