トップが語る、「大学」と高校生へのメッセージ

上智大学学長 滝澤正先生「グローバル・コンピテンシーのために」

滝澤正先生の写真

歴史にもしもがあれば、今から約460年前の室町時代末期、日本にもヨーロッパ型の大学ができていたかもしれません。

日本にキリスト教を伝えたことで知られる、ローマカトリック教会の有力会派、イエズス会の設立メンバーの一人聖フランシスコ・ザビエルは、当時の日本の都、京都に大学設立を計画します。しかし日本国内の武力による政権争いなどにより計画は挫折します。その夢はそれからおよそ360年後の大正2年、3人のイエズス会神父※1によって叶えられます。それが現在の上智大学です。

グローバル化時代を迎え、新たな開国の時を刻み始めた日本で、設立当初からグローバルな大学であった上智大学への注目は高まる一方です。今春から新たに学長になられた滝澤正先生に大学で学ぶこと、高校時代に心掛けてほしいことなどについてお聞きしました。

※1 ヨゼフ・ダールマン師(ドイツ)、アンリ・ブシェー師(フランス)、ジェームズ・ロックリフ師(イギリス)。

大学とは二兎を追えるところ

高校と大学との最も大きな違いは、大学には学問を本格的に究める専門課程が置かれているということにあります。日本のほとんどの大学では、入学段階で大まかな分野を選び、その後、それをさらに絞り込んで専門課程に進み"自分の専門"を決めます。もちろん専門課程のある高校もありますが、大学に置かれているのはもっと本格的なものです。大学とは、専門的な知識や技術を身につけることで社会に貢献できる人材を養成する場なのです。

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近年は学問の高度化やグローバル化に対応して、学部の4年間を広い意味での教養教育期間と位置づけ、専門を深めるのは大学院教育でという風潮もあります。たしかにそれが当てはまるような分野もありますが、やはり4年で卒業する学生が圧倒的に多い中、専門課程の存在意義が薄れてきているわけではありません。

大学はまた、高校時代に引き続き倫理観や道徳心、公共心を養い、社会人として求められる教養をさらに高める場でもあります。自己の専門が大事ということで1年から4年まで、それ以外のことには見向きもしないのでは、大学を有効に活用したことにはなりません。大学とは専門課程の集合体ですから、自分の専門以外の学問にも興味が湧いてくれば、必修とされる全学共通教育科目だけでなく、他の学問にも積極的にアプローチしてみてはどうでしょうか。

たとえば本学を例にとると、一つのキャンパスに8つの学部が会していますから、時間的にも空間的にも、自分の専門以外の学問に触れるチャンスはたくさんあります。また外国語だけで授業の行われている学部もありますから、その中の講座を選べば、帰国子女や、交換留学生などと机を並べて国内にいながら留学しているような雰囲気を味わうことができます。[キーワード:クロスリスティング]

このように、定められたメニュー以外のものもプラスアルファで学べるのも、しかもそれがすべて自分次第であるところも大学の特徴なのです。最近は多くの大学でプラスアルファの学びも卒業単位に認めるなど、このような幅広い勉学を積極的に後押しする傾向が見られます。まさに大学とは、本人のやる気次第では、二兎を、いや三兎も四兎も追える場なのです。

[キーワード]クロスリスティング制度: すべての授業を英語で行う国際教養学部の一部の授業を、他の学部生が履修できる制度。全学共通教育科目として扱われるのが一般的だが、学部によっては、学科(専門)科目に組み込まれているところもある。いずれも一定の範囲内で卒業単位に認定される。ただし、受講にあたっては、TOEFL560点以上、TOEIC730点以上、実用英検準1級以上などの条件がある。

上智大学3つのミッション

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私立大学にはみなその設立の経緯や目的に応じた建学の理念がありますが、上智大学の場合は、その根幹をなすのがキリスト教ヒューマニズムです。

ここからまず、ミッションの1番目、「Menand Women for Others, with Others、他者のために他者とともに生きる」が出てきます。大学で学んだことは自分のためだけではなく、世のため人のために役立てる、そんな社会に奉仕する心を身につけてもらおうというものです。しかもそれは、自分ひとりで行うのではなく、他人とともに連帯して行ってこそ意味があるものです。

ミッションの2番目は、国際化に対応できる能力を身につけてもらうことです。私たちはこれをグローバル・コンピテンシーと呼んでいます。ドイツ人、フランス人、イギリス人という国籍が異なる3人の神父によって、東洋の文化と西洋の文化とを比較して新しい学問研究を生み出そうと設立された本学は、生まれながらにグローバルな大学です。当初から、国際的な教育をしようという熱意をもって運営され、学部、学科にも国際的な視野に立って作られたものが少なくありません。戦前から、海外とのネットワークを生かした学生交流なども盛んでした。

よく≪語学の上智≫と言われますが、単に語学だけでなく、国際的な知識と高い専門性を身につけ、さらに異文化を理解し、国際舞台で活躍できる人材の育成が私たちのミッションなのです。

3番目は建学の理念とも重なりますが、上智的人間の育成です。大学名となっている≪上智≫とはギリシャ語の≪ソフィア≫を日本語に訳したもので、≪最上の叡智≫を意味します。これは単に、知識を有するというだけでなく、複合的な学びによって得られた広い視野に基づく問題解決能力、直接に学んだことのない事象に出会っても対応できる能力のことであると、私たちは解釈しています。

高校生へのメッセージ

大学とは、自分の考え方一つでじつにたくさんのことを学べる場です。そのための準備期間ともいえる高校時代は、それらを思うぞんぶん吸収するのに必要な基礎学力、象徴的に言えば、読み書きそろばんを身につけておかなければなりません。ただその際、私として最も避けてほしいことは、大学へ入ることを全ての目的にしてしまうことです。これでは、大学へ入った途端、何のために大学を目指していたのかがわからなくなり、せっかくのチャンスを目の前にしながら、途方に暮れることになりかねません。もちろん人間は、目的意識も持たずに漫然とは勉強できませんから、大学で何を学ぶのか、その先の社会では何をしたいのかなど、ある程度目標を持っておくことが必要です。

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もっともかくいう私は、そのどちらにも当てはまらない高校時代を過ごしました。私が育ったのは長野県の中野市という田舎です。時代も時代でしたから、幼馴染や中学までの友人には農家の跡を継ぐような人が多く、およそ進学とは縁のない環境でした。大学に進学するという選択肢があることを知ったのは高校へ行ってからで、その中で成績が優秀なら、東京大学へも行けると聞いて驚いたものです。

もちろん大学を目指すようになってからは受験勉強もしました。しかしそれもほんの行きがかり上のことですから、私自身のしていたことは「目標を持て」ということとは矛盾しているかもしれません。といって、私にとっては素晴らしい高校時代であったことも事実です。東京大学に入ってみると、たしかに周囲には中学、高校時代から東京大学をめざし、将来は官僚になろうとか、大企業へ入って立身出世しようという仲間も少なくありませんでした。しかし私には、それがあまり魅力的なことには思えませんでした。勉強は好きでしたが、競争社会があまり好きではなかったのかもしれません。

卒業する頃には、官僚でも法曹でもなく、迷わず研究者の道を選びました。大学院へ進み修士課程で選んだ研究テーマも、法学部の花形である民法や刑法ではなく、フランス法でした。決してメジャーではないけれど、専門家は要る、まさに一遇を照らすことに生きがいを感じていたのだと思います。

このような自分の経験に照らし合わせてみると、目的を持たないのもよくありませんが、それを狭く設定して過度に意識するのも考えもので、やはり何事もバランスが大切だということになるのではないでしょうか。

私としては、大学へ入ってから、学問や課外活動に嬉々として取り組めるような高校時代を過ごしてほしい、ということ以外に、みなさんに対する注文はありません。よく一般論として、ゆとり世代であるとか、学力低下や国語力、コミュニケーション不足などが取りざたされますが、少なくとも私には、そのような傾向は感じられません。確かに文章を書くことが苦手な学生はいます。しかしこれはただ、これまでの日本の国語教育があまりそういうことに重きを置いてこなかったため、訓練する機会に恵まれなかっただけなのではないでしょうか。

創立100年へ向けて、上智の取り組み

みなさんの関心の高い入学者選抜に関しては、2010年からそれまで一切行ってこなかった高等学校との教育連携を、同じイエズス会が運営する学校と始めています※2。他にもいくつか改革は検討中ですが、具体化するにはもう少し時間がかかります。キャンパスについては、確かに現在の8学部が1つに会することのメリットは大きいですが、やや手狭になってきているのも事実です。2年後の100 周年を迎えるまでには、新キャンパスについても目途をつけたいと考えています。

今春には、法人合併した聖母学園から看護学科を引き継ぐとともに、大阪にサテライトキャンパス(コラム)を開設しました。看護学科は、日本の大学としては初めて、総合人間科学部という人文系学部に組み込まれたもので、これまでにない全く新しい理念、「上智モデル」の下に発展させていこうと考えています。人文系の学部の中へおかれることで、これまで以上に人間というものを深く理解する方法が学べると思いますし、上智大学の伝統である、幅広い教養と国際性も身につけてもらえると思います。同時に既存の学部も、これまでなかった資格志向の実学系の学科が加わることで、とくに社会福祉系を中心に、様々な面でいい影響を受けるのではないかと期待しています。

100周年へ向けて、まだまだ課題は山積みですが、≪世界に並び立つ大学≫を目指すこれからの上智大学に期待してください。

※2 福岡県福岡市にある泰星中学・高等学校との間で教育提携に関する協定が結ばれており、2011年から校名も「上智福岡中学高等学校」となった。
2011年4月には、静岡県静岡市にある学校法人星美学園が設置する静岡サレジオ小学校・中学校・高等学校と教育提携に関する協定を締結した。

上智大学大阪サテライトキャンパス(SC)

上智大学大阪サテライトキャンパスの写真

カトリック大阪大司教区が大阪市北区に建設した大阪梅田教会(サクラ ファミリア)の2階部分に開設。阪神淡路大震災で被災した人たちの心のケアを行うことを目的に開設された聖トマス大学(旧英知大学)のグリーフケアセンターの活動の一部をここで引き継いでいる。関西および西日本地区在住の卒業生に便宜を図るだけでなく、教員免許状更新講習や、社会人教育の拠点としても活用することを考えており、今春からはすでに社会人向けの『上智エグゼクティブ・ビジネス・アカデミー』がスタートしている。将来的には入試説明会や推薦入試の一部を行うなど、受験生にも便宜を図っていく予定である。

Profile

上智大学 学長

滝澤 正先生

1946年、長野県生まれ。法学博士。専門は比較法及びフランス法。東京大学大学院博士課程修了。1976年上智大学法学部助教授、84年同教授、2004年から法科大学院教授、現在に至る。この間、同大学法学部国際関係法学科長、法学部長、法科大学院長、図書館長、上智学院評議員などを歴任。2011年4月に第14代上智大学学長に就任。1984年、『フランス行政法の理論』で渋沢・クローデル賞を受賞。長野県立長野高等学校卒業。

※この記事は、大学ジャーナル2011年6月号(Vol.93)に掲載された当時のものです。